ウタカタノオト3 (ページ26)

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#ニューシネマパラダイスページ26

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ショートプログラム7位でフリーを迎えたAは、第1グループの最終滑走を引き当てた。

最初か最後という極端な順番しか引き当てられないものなのか、と教え子のくじ運に若干引いている。

競技2日目ということも影響するのか、演技前のAの様子に慣れが見える。

右も左も分からずぽかんとしているようで、どこかベテランのように堂々とした変な落ち着きも兼ね備えていたA。

今はもう自分のすべきことが分かっていて、一選手として目の前のことに集中できているのが感じられた。

昨日の今日だからかな。
状況の飲み込みが早くてこちらとしては助かる。

まあ逆に言うと、年齢以上に大人な面があるから、何かと1人でやろうとしすぎるところは心配になる。

目が離せないヤツであることに、変わりはない。

名前がコールされる直前、Aは俺の言葉を待った。
意思の強い眼差しでこちらを見つめる。

技術的なアドバイスが欲しいとか、不安だから背中を押して欲しいとかではないそれを俺は受け取った。

___うん、大丈夫。

Aはもう理解している。

氷の上で1人で点数を争うということ、人前で舞うということ、誰かに観てもらうということ。

まだ演技は始まっていないけれど、もう既に安心した。

Aは大丈夫だ。

自信を持って送り出せる。

側から見たら多分今俺、破顔しているだろうな。

俺はあくまで柔らかく、Aに伝えた。

「お前の伝えたい相手に、ちゃんと伝えてこい」

はい、という返事を残し、Aは氷を蹴った。