ウタカタノオト3 (ページ22)

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“田園風”と言いつつ、どこか現実から離れた異世界のような雰囲気が好き。

ちさがそんなことを熱弁していたのを思い出す。

そして、それを大切にして滑りたい、とAは話してくれた。
プログラムの中で、1番Aが練習したパートがステップだ。

伸びやかなオーボエの音とともに、1歩1歩のスケートもよく伸びる。

そういや、オーケストラの一部としては聴いたことのあったオーボエを、ソロでがっつり聴く機会は今までなかったなと思った。

バイオリンとかクラリネットに比べるとあんま有名でもないし、地味な印象すらあったオーボエ。

でも実際、オーケストラの中では主軸で、重要な役割を担う楽器らしかったのを最近知った。

たくさんいるオーケストラ団員のど真ん中に座り、高頻度でソロパートを担当する。

演奏前にオーケストラ全体で音を確認するチューニングはオーボエ始まりだし、世界一難しい木管楽器としてギネス認定されるくらいなので、演奏者側の技術も求められる。

ちなみにチューニングがオーボエスタートなのは、他の楽器に比べて正確で安定した音がよく響き、合わせやすいかららしい。

何よりオーボエの1番の良さは、演奏者によってがらりと変わる、甘くやわらかく温かい、聴く人の琴線に触れるような、哀愁漂う音色にあるのだ、とちさは語る。
(ここまで全てちさ情報だが)

「オーボエって、何だかすごく人間的な感じです」

もう何度もプログラムを通して練習しているAが、誰に訊かれたわけでもないのにそう呟いたことがあった。

意味を問うと、「いや、何となくというか、ただそう思っただけなんですけど……」と鼻をかいた。

楽曲を聴いて感じたことは、きっと演じるときに生きてくるだろうから、ちょっと掘ってみようと思ってAの言葉を待ってみた。

すると「推測ありきの持論なんですが」と続いた。

「オーボエの音って、人が話すときの音と近い気がしてるんです。音の高さという意味でも音色という意味でも。楽器が鳴っているというより、唄うとか話すとかそういうものと近い。だからか、すんなりと心に響くし、すごく落ち着きます。聴きながら滑っていて心地がいいんです」

Aの言葉は、全て本心に思えた。