ウタカタノオト3 (ページ14)

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Aには、スケートを始めたばかりのときから特技とも弱点ともとれる“ある体質”がある。

それは、自分が見た技などの動きをそのまま体現“してしまう”というもの。

初めて俺がAにスケートを教えたとき、俺が手本としてステップを教えようとしたら意図せず転けてしまったことがある。

すぐに正しい手本を行ったものの、Aは直前の転けた方が脳裏に焼きついたらしく、その後何度やっても同じ箇所のステップで転けてしまったのだ。

その場に立ち会ったときは、「俺のことをからかってわざとやってるんだろ」と思っていたが、どうやらそれは思い違いだった。

反対に、教えていなかったはずのウォーミングアップは、俺が毎日練習始めにやっているのを見ていたからか、すんなり習得していつのまにかできるようになっていたのだ。

この、本人が無意識にコピーしてしまうという“体質”を、コーチである俺がコントロールしなきゃならなかったのだが、そこは言うは易く行うは難しと言ったところ。

早いうちにそれを見抜いて、なるべく他の選手の演技や練習を見せずにAなりの個性を作れたことや、羽生のジャンプだけを見せて癖のないそれを習得できたことは優位に動いたとは思う。

ただ、ファンタジーオンアイス本番初日で羽生がループをパンクしたときに、練習でAのループも同じように抜けまくった事実を思い出すと、やはり大きな弱点にもなり得るのだ。

俺がAを長いことデビューさせなかったのも、その体質が主な理由だったりする。

他の選手の動きが嫌でも目に入るだろうし、いちいちそれに影響されていてはやっていけないのでは、と考えていた。

ちなみにこの体質は、本人は気づいておらず、俺の口から伝えたこともない。

言うべきか言わないべきか、これに関しては何度も悩んだが、言うことで本人が強く意識してしまっては弱点にしかならなくなるだろう。