ウタカタノオト3 (ページ12)

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鈍い衝撃音とともに、私を呼ぶコーチの声が聞こえた。

ただ本当に、聞こえただけで、振り返りもしなかった。
というか、振り返れなかったのだ。

目の前で羽生さんが倒れている。

リンク上で1人、動けないまま顔をしかめている。

明らかに様子がおかしい。
単に難しいジャンプに挑んで転けた、訳ではなさそうだった。

その状況を、すんなり飲み込むことは難しかった。

滑走路を塞いでしまったのだろう。曲かけ中の選手に謝る仕草をしてから彼は立ち上がった。

その後、着氷した右足を氷から浮かせながら、先ほどまでとは比べ物にならないくらいのゆっくりとしたスピードで、羽生さんはリンクを引き上げた。

彼の表情は、ただ険しかった。

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声を、かけようとしてしまった。

位置的に、羽生さんのいるところから私が見えないはずはなかったから。

何かしらの言葉を紡ぐことで、今起きた事態が何ともないことを証明したかった。

でも、言葉は喉の奥の奥に留まった。

こんな状況下で、声なんかかけられるはずがなかった。

「A。時間」

「大丈夫ですよね」

「ん？」

「羽生さん、何かあった訳じゃないですよね」

コーチに聞いても分かるはずないのに。
彼には異常な事態が起きているはずなのに。

誰でもいいから、“彼はきっと大丈夫”と、誰かに教えてほしかった。