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「コーチはきっと、選手である自分のことを思って“コーチとしての選択”をしてくださったんだっていうのは理解しています」

「うん」

「だからこそ、何か、まだ割り切れていないというか。一選手として、自分は試合に臨めていない気がしてて」

試合を終えて一晩経っている。
自分なりに色々なことを考えたし、昨日より気持ちの整理も何となくついた。

「まぁ、まだ初戦だしな。昨日も言ったけど俺ら駆け出しだから経験したことのないものを感じるのは当たり前だし、むしろ正解だとも思うよ」

考えてみればそうなのだ。

昨日は思うところがありすぎていたけれど、ホテルでも言われたコーチのその言葉で、心に残った違和感はだいぶ拭われた。


まだ初戦。


今まで選手として活動していなかった分、慣れない感触が私を襲うけれど、そこも新鮮味として消化できるなら、またひとつ階段を上れたような景色にもなり得る。

コーチはコーチとして、私は選手として、まだまだ未熟な部分がある。
これから少しずつ経験を積んでいくことで、また感じることも変化していくのだろう。


ちなみに音響に関しては、アイスショーに出たときに会場ごとに音の響き方が違うというのを学習済みだったので、特に支障はなかった。


「試合に出るって一言で言っても、今回みたいに勝ちを目指さない闘い方もあるんだっていうのは勉強になりました」

「人それぞれ色んなタイプもあるしな。無事ミニマムもゲットしたし、また練習も次に向けて変えるから」

「とりあえず日本に帰ったら、もう1回ルッツとフリップの練習したいです。もちろんトリプルジャンプ。あと音に合わせないで滑る方が難しいから音をちゃんと聴いて滑りたい」

コーチが練習について触れてくれたので自分の願望をザッと述べてみると、コーチは笑った。

「一応昨日の演技も音には合ってたけどな。つーか練習内容は俺も探り中だから許してくれって。お前練習がつまらないのを顔と態度に出し過ぎだから」

どうやら私が練習に対して不満を持っていたことは、とっくに気づかれていたっぽい。


「全然そういうの言ってもらっていいから。むしろ助かる」

自分の願望を言うことでコーチの本音も聞けるなんて、言ってみるものだなと思った。

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作者名:たこやき | 作成日時:2022年9月18日 20時

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