ウタカタノオト２ (ページ5)

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「Aちゃんの演技ってさ、拍手を送るの忘れちゃうよね」

俺の言葉に昌磨が「あぁ、何となく分かるかも」と賛同してくれる。

「初日のときもさ、演技が終わってから拍手くるまでだいぶ時間あった気がする」

「そうそれ。引き込まれてから抜け出すまで時間かかるみたいな」

名前をつけるなら_____“拍手をさせない演技”だ。

日本は特に、表現力の高い女子スケーターが数多くいるし、もちろん表現力に限らないが、シーズンを重ねるにつれレベルが上がっているように感じる。

Aちゃんは、そんな今のトップスケーターに混じっても遜色ない、経験者の演技のように思える。

「何か……もういいや」

もうどうでもよくなってきた。
この子がこのショーに出ることになった理由も、今季がシニアデビューの理由も。

こんだけ上手いなら、もはや関係ない。

ショーのごたごたで、彼女と話すらまともにできていないのもあり、若干やけくそになっているけれど。

ただ、話してはいないものの、Aちゃんが初日の俺の演技を関係者席で観てくれていたのは知っていた。

バラ1を演じ終わってお辞儀をしたときに、座高のある男性(確か……神谷さん)の隣で拍手をしつつ座ったまま固まる彼女を見つけたのだ。

あの日の演技は最初のジャンプ以外悪くなかったから、あれを観てもらえて良かったと思う。

彼女が観てくれている。それが背中を押したのか、アンコールのレックレはだいぶはしゃいだのを思い出した。
2回目のお辞儀も同じ場所を見たら、今度は拍手すらしていなかったから、また引かれてしまったかもしれない。

投げキッスに関しては、信くんに散々いじられたし。

実際Aちゃんにどう思われたかは、今の時点で迷宮入りしそうだ。

「じゃ、そろそろアップするかな」

「あ、そういえばゆづくん。さっきカメラマンさんに呼ばれてたよ」

「えっ？何用？」

「何か、取材だか何だか」

あぁ、マジか。
今日神戸ラストだもんな。確か前もそんなんあったわ。

「OK。ありがと昌磨」

でもいつか、彼女とスケートについてゆっくり話したい。

ショーが落ち着いたら、本格的にシーズンが始まる前に。
そのために、今日の公演が無事終わったら、1度会わないと。

あんな演技ができるスケーターとまた話せることを想像して、何だかワクワクした。