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「あれ」
変わっている。昨日や一昨日とはどこかが違う。
「あそこはチョクトーから入ってた気がするんだけどな」
「ねぇ、ゆづくんさっきからぶつぶつ言ってるけどどうしたの」
いよいよ神戸最終日となった今日も、変わらずAちゃんの演技を観ているのだが、今までとは違うステップを踏んでいるのだ。
心なしか表情も違う気がする。
多少意識的に独り言を呟いていたのが、近くにいる昌磨に聞こえたようで、声の主から話しかけられる。
「Aちゃんの演技、何か前と違うんだよね」
「えぇ、気のせいじゃない?」
疑ったように聞き返す昌磨に、ほら今のとことか、と説明するのだが、なかなか合点がいかないようだった。
「僕だってたまに振付変えちゃうことあるから、そんな感じかな」
昌磨の言葉に今度は自分が疑いの意を持つ。
そりゃ、振付を変えるのは俺だってある。手や腕の動きは曲に入り込んでいると自然にそうなることもあるし。
同じプログラムを滑っても全てが同じになることは稀だ。
でもAちゃんのは、そもそもステップ自体が違うのだ。しかもラストパートほとんど。
腕も変われば足も変わる、といった様子で。
「完全なる意図的な変化……」
最終日にそれやるとかチャレンジャーなのだろうか。
個人の練習時間なんてショーの期間中は少ないし、無名の選手なんか尚更だ。ほぼないに等しい。
その中で変えているとしたら……アドリブだ。
「あ」
昌磨の声で我に返る。
あーあ、他人の演技中に分析を持ち込むのどうにかしたい。
改めて画面を見つめた俺は「ん?」と組んでいた腕を解いた。
「フィニッシュポーズ、は明らかに違うね、うん」
昌磨が唸った。
画面の中の少女は、掌に収めたバラをスピン中に掲げ、嬉しそうに胸元に寄せると、リンクの中央で天に差し出すかのように指先にのせた。
するりとリンクにこぼれ落ちたバラを慌てたように手に取ると、今度は抱き寄せるようにし、氷の上で優しく抱え込んだ。
「昨日とぜんぜん違うじゃん」
「僕まだAちゃんときちんと話したことないけど、何か色々と印象が違うね」
「俺も見るたびに印象が変わるよ」
初めて話したとき、演技を観たとき、通路でふと目が合ったとき。印象はそれぞれ違った。
今画面の中で、素早く立ち上がり、せっせと四方にお辞儀をし、どこか恥ずかしそうに捌けていくその姿も、さっきまでの彼女の面影が見えるような見えないような。
そんな彼女に思わず感心する。
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作者名:たこやき | 作成日時:2022年9月18日 20時