#3 ページ27
「でも物足りなかったんじゃない?」
「えっ?」
予想してなかった質問に思わず聞き返す。
「だってAちゃん十分スケーティング上手いじゃん。相当色んな練習してきてるでしょ」
羽生さんから見るとそうなのか。
私からすると新鮮だったし、やってこなかった練習方法も教わったから、特に物足りないとかは思わなかった。
むしろ、こういう練習を積んでいるからこそ羽生さんのスケートは成り立っているんだと理解できたし、これからシーズンを通してプログラムを複数演じていく上で、無駄な力を使わずに滑ることがどれだけ大切かというのも教われた気がした。
「スケーティングは神谷さん譲りだとして、あんな綺麗で癖のないジャンプはどうやって教わったの? ジスランと繋がってたって言っても、確かここのリンクに来ることは今までなかったよね」
「あぁ、ジャンプはもちろん羽生さんを……」
全部を言いかけてから言葉に詰まった。
「えっ?」と、羽生さんの汗を拭う手が止まる。
……これ、どこまで言っても大丈夫なの。
ふと、自分がしてきたことって、実は羽生さん側からすると嫌に思われたりするかもしれないな、とよぎった。
許可なく他人にジャンプを真似されたり、研究されていた割に初対面では気づかなかったり。
ジスランと羽生さんが同じクラブにいるとは聞いてもいなかったけれど、海外のリンクまで来てしまったなんて、傍から見れば追っかけだ。思い返すと失礼である。
でも、感謝の気持ちがあるならばきちんと表すべき、とも思う。
“ありがとう”と“ごめん”は素直にすぐ伝えるべきだし、“報連相”はコミュニケーションを図る上で欠かせない。
よし、と意を決して言葉を紡ぐ。
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作者名:たこやき | 作成日時:2022年9月18日 20時