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まだリンクで滑っているスケーターのみんなを眺めながら、私はテーブルにうつ伏せになる。
みんなすごい。
本当にすごいけれど、やっぱり目で追ってしまうのは彼だった。
先ほどまでの会話をぼんやりと思い出して、純粋に思う。
私と羽生さんは、かなり違う。
これは諦めとかじゃない。ただただ正反対の道を歩んできてしまったという、変えることのできない実相があるだけの話だ。
私は羽生さんのような夢追い人じゃない。
むしろ夢なんて持たずに生きてきたし、今も特に持っていない。
そのことをマイナスに思ったこともないけれど、夢を持つことであんなふうになれるのなら、夢は叶えるものと捉えて走り続けられるのなら、それもまた充分魅力的なことだ。
加えて結果がついてくるのならなお。
生きてきた環境がこんなにも違うのに、同じリンクで滑るという現実が発生したことに脳がパニックを起こしそうになっているところに、羽生さんはやってきた。
「帰っちゃうの?」
練習終わりの彼は、止まりそうにない顔や首の汗をタオルで強めに拭っている。
「この大荷物で逆に帰る以外にあるんですかね」
「天邪鬼だなあホントに」
言いながらちゃっかり隣に座る羽生さん。
不思議と汗臭くはなかった。
「羽生さんって、食事とかめっちゃ気にしてます?」
「あぁ、それなりには。でも食に関してはあんま興味ないし細い方だから、母親とかトレーナーさんが管理してくれてるよ」
それか。
「急に何で?」
「あ、いえ。お気になさらず」
どこかで、汗の臭いは食べるものからくる、というふうに聞いたことがあったけれど、羽生さんの食生活が規則正しいものであるなら納得だ。
何時の飛行機で帰るの、と訊かれたので、近くのホテルで一泊することを伝えた。
「今日のレッスン、どうだった?」
「楽しかったです。グループレッスンはあまり経験がなかったんですけど、すごく勉強になりました」
「なら良かった」
今日だけで収獲がたくさんある。
ルッツも降りれたし、日本にいたままでは味わえなかったであろうハードな体験を異国の地でできたのだ。
こんな素敵な場所に呼んでいただいたクリケットの先生方に頭が上がらない。
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作者名:たこやき | 作成日時:2022年9月18日 20時