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「……あ」
はっとした私は勢いよく起き上がる。
そうだった。忘れてた。
なんならメインであろう合同練習が待ち受けている。
体力はほぼ残っていないというのが正直なところだけれど、決めたのだからやるしかない。
手についた氷の欠片を払い、ふと、カナダの氷ってやっぱり何か違うよなあと思いつつ、何がどう違うのか言語化できないまま天井を仰いだ。
木の梁(はり)が特徴的な造りになっており、何だか落ち着く。
こういうのを小屋組というのだろうか。
少なくとも私が行ったことのあるリンクにはない造りである。
鏡もどこからでも全身が見えるような位置に設置されているし、コーチも専門性のある人が何人も所属しているらしい。ジスランがジャンプ専門、というように。
さっき彼が入っていった所以外にもいくつか部屋があり、トレーニングルームも備わっている。
観覧室兼休憩室であるロビー(正式名称はよく知らないけれど、そう私と神谷コーチが呼んでいる場所)からは、このリンク全体を見渡すこともできる。
ダイニングも存在し、ケータリングもあるという。
とても広い施設だから、まだまだ知らない場所もあるだろう。リンクと言っても、いくつかある設備のうちのひとつにすぎない。
それだけ大きな施設なのだ。会員費が高いことも納得できる。
「ちとロビーにいるわ」と外に出ていった神谷コーチに返事をしてすぐさま立ち上がり、クールダウンのために数周リンクを回り終えると、私の足はリンクサイドにあるベンチに向かった。
腰をかけて靴を履き替える。軽く両足首を回した後に、荷物をまとめた。
ロビーに通ずるドアを開けると、コーチが軽食をとっているのを目撃する。
「私もお腹空いてるんですけど」
「練習始まる前にちょっと食わしてやるよ。あ、更衣室あっちにあるから着替えれば。汗かいたろう」
教え子がきつい練習をした後に堂々と美味しいものを食べるコーチの神経はまるで理解できない。
そんな思いを腹の奥底の方に押し込めて、コーチが指した方向へ歩き出しつつ、リュックから予備の着替えを取り出した。
「やっほ、Aちゃん」
思考を停止させるような声が聞こえたのは、女子更衣室と分かるような扉を見つけて手をかけたそのときだった。
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作者名:たこやき | 作成日時:2022年9月18日 20時