猫は嫌いじゃないけれど (ページ9)

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#きゅうページ9

「とにかく、色んな人がリンクに出入りしてるんで、彼らの会話からそう思っただけです」

「あっそ」

言葉では突き放しているように聞こえるが、実はこの時間が、彼にとっては素でいられる気楽な時間だった。

プロ転向を告げたあの会見の日から、YouTubeでSharePracticeを行った日まで、ずっと緊張しながら生活していた。

新たな試みを楽しんでもらえるのか、プロとしての演技を全うできるのか、現役時代と変わらず、不安は尽きなかった。

そんな日々の中で、猫と戯れることのできる時間はやはり特別だった。

喋る相手が猫だろうと、リンクで自分以外の誰かがいてくれて、自分以外の誰かとコミュニケーションをとれるのは、コロナ禍を経験しているからこそ、そのありがたみを感じることができた。

SharePracticeと同じように曲をかけ、リンク全体に響く音を感じながら身体を揺らす彼。

「お、今日もこの曲をかけるんですね」

聞こえてきた声にふと、「あれ？」と思った彼は尋ねた。

「そういえば、観てたの？」

「はい？」

「シェアプラ。観ないって言ってなかったっけ」

彼の質問に対し「あ〜」と思い出したような声が返ってくる。

「遠慮しとくって言いました」

「へっ？」

「観ないとは言ってないです」

ただの屁理屈じゃねそれ。

そう思ったが、彼は言葉にせず、ふーんと鼻を鳴らした。

「……何です？」

「結局気になっちゃったのね〜。僕のこと」

「リンクに出入りできるからいただけですよ」

「はいはい」

そっかそっか〜、と少しわざとらしく反応する彼は、頬をゆるませながらリンクに足を踏み入れる。

「あ、エッジカバーは外してくださいね」

その言葉の全てが耳に届かないうちに氷にのった彼は、案の定バランスを崩すことになった。

「あっぶな！」

すぐにフェンスに手をかけ、上体を支える。

「おお、尻もちつかないなんて、さすが羽生結弦。選手でも転けてしまうシチュエーションなのに」

スケート靴にエッジカバーをつけたままリンクに上がるのは、初歩的なミスでありながら大きな怪我につながりやすい。

マイシューズを持つスケーターなら、誰もが経験のありそうな状況に、自分で苦笑する。

「そんなところで感心されても嬉しくないけど」

不貞腐れたような表情でエッジカバーを外した彼は、気持ちを切り替えるように「お願いします」と呟きリンクインした。