#はち ページ8
.
SharePracticeの反響はそれなりに大きく、その日のうちにアーカイブ動画の再生数は100万回を突破した。
もちろんそれがゴールではないので、その後も、年内にアイスショーを開催させるためにまた練習を重ねる。
「公開練習、だいぶ疲れた感じですね」
温度のない声色が脳内に流れる。
猫の姿形がすぐそばに見えなくても聴こえるこの声に、もうすっかり慣れてきた。
彼はこれからリンクの上にのる準備をしつつ、話し始めた。
「いつもと違う時間帯ってだけで、身体の状態は結構変わるもん」
4Aも降りれんかったし。
そう口にした彼は悔しさを分かりやすく表に出し、くしゃっと顔を歪めた。
「くっそ自由にやる予定だったけど、がっつりトレーニング配信になったなあ」
「それはそれはご苦労で」
「まあ自分でやるって決めたからいいんだけど。てかあれはあれで体力使ったけどさ、その後のインタビューもなかなか頑張ったと思うよ?」
SharePractice終了後、“地獄のインタビュー”を自ら開催。
25のメディアから各社5分間ずつ、個別でインタビューを受けた。
つまり、配信後2時間以上に渡り、質疑応答や写真撮影が行われていたことになる。
「わざわざ直後にそれを設けるために、いつもの練習時間じゃないお昼に配信しようって決めたんですか」
「そういうふうに計画したんだよ、俺が」
「へぇ。それはあれですね。演技直後の羽生結弦からの想いを聞けるなんて嬉しい派と、演技後はとりあえず休んでほしい派にファンは分かれる、と自分は思いますけどね」
「ふ〜ん、意外とその辺詳しいのな」
スケート靴の紐を締め終え、立ち上がって軽くジャンプしながら彼が言う。
「ここのスケートリンクに羽生氏のファンが何人来てると思います?」
「さぁね」
何人なの、と彼が尋ねると「数えてるわけないでしょう」と淡々と返される。
7人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たこやき | 作成日時:2023年6月14日 17時