#よん ページ4
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いつからかははっきり覚えていない。
けれどその猫は、あるときからずっとこのリンクに訪れていた。
コロナ禍に突入して丸2年。
練習拠点をトロントではなく、地元、仙台に移す形になり、夜中に貸切を予約して練習する日々だった。
誰もいないリンクでトレーニングを続けることの意味。
環境が急に変化した2年前は、今と心持ちも状況も全くと言っていいほど違っていた。
広いリンクを自由に使える良さもある一方、辛くなったときに吐き出せる相手がいない、自分の演技に対してフィードバックがない、そもそもなんでスケートをしているのか分からなくなる、そんなマイナス面も浮かび上がった。
SNSなどの媒体を通せば他の選手の情報が入り、1人取り残されている感覚が襲う。
収束する気配のないウィルスが人と人とを更に遠ざける。
そういうひとつひとつが彼を追い詰めていた。
そんな中でもスケートをする意味を見出し、好きなプログラムを好きなように演じることで童心に帰った。
“誰かに見てもらいながら滑ることが好き”な自分のために、競技を続けることを決心。
その後全日本を連覇し、アイスショーにも出演。
北京五輪では4回転アクセルに挑み、初認定させた。
そして競技生活に区切りをつけると、プロのアスリートとしてスケートを続けることを宣言。
今も1人で練習していることに変わりはないし、辛い状況が完全に消える訳ではない。
それでも少しずつ先が見え始め、やりたいことが決まってきている中でのトレーニングは、難しいからこそとても充実感があった。
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作者名:たこやき | 作成日時:2023年6月14日 17時