vol.42 ページ43
馬鹿げているな、とは自分でも思う。
だけど現実は夢とは違って、逃げ場がない。
たとえ夢であっても覚めることはない。
「伊野尾くん今は寝てるんですけど、ついさっきまで泣いちゃってて…。」
さっき、とは俺が病室を去った後のことだろう。
泣いていたとなれば、更に俺は最低な人間だ。
人を傷つけて、無責任にも投げ出した救いようのない人間。
「手術は受けない、って言われちゃって。一時的に気持ちが高ぶっているだけだとは思うんですけど何か知りませんか?」
心臓が大きく跳ねた。
彼は単に知っていることがあれば教えてほしいと言っているだけだ。
それに深い意味はない。
だけど心当たりはお世辞にも無いとは言い切れなかった。
「……。」
それでも口に出すことが出来なかったのは、きっと俺が伊野尾さんの『弱さ』を知っているからだと思う。
その『弱さ』は俺が強いから見下しているという意味ではなくて、同じ弱い立場に居るからその苦しみが理解できるということ。
人の悩みや苦しみを良かれと思って第三者に相談するというのは、自分が強い立場に、人を見下せる立場に居るという証拠。
弱い人の気持ちを理解してあげられずに、偽善という靴でその地面をぐちゃぐちゃに荒らしてしまう。
後から『あなたの為を思って他の人に相談したの』と言ってしまえばそれまでだ。
きっと気付かないのだろう。
相談という名の告げ口をしていたことに。
自分の弱い部分を知らないうちに他の誰かに知られているという恐怖を、俺は知っている。
知っている上でそれをしてしまうと、それは偽善でも何でもなくただの悪者。
残酷な手段を平然とやってのける偽善者を、俺はこの目で何度も見た。
だから恐れた。
だから誰かを簡単に信用することが出来なくなった。
だから、伊野尾さんにも打ち明けられないでいる。
「あの、俺そろそろ帰ります。」
結局は飲むことのなかった缶コーヒーを鞄にしまう。
用事があるわけではなく、単にこの空気に対して居心地が悪いというだけで。
「あっ、最後に一ついいですか?」
出来れば今すぐ立ち去りたかったけれど、そんな薄情な真似はしたくないから仕方なしに足を止める。
「来週の火曜日、伊野尾くんの誕生日なんです。」
来週の火曜日?
今日は6月17日の木曜日だから……火曜日は22日?
それだけ言うと俺よりも先に高木さんが去って行ってしまった。
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天凪(プロフ) - サクラさん» このような形になってしまい、本当にすみません…!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします! (2017年3月6日 8時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - そうだったんですねぇ、これからも頑張って下さい!! (2017年3月5日 19時) (レス) id: d7def24883 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - 萌伽さん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません!これからも頑張ります。温かい応援よろしくお願いします! (2017年3月5日 7時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
萌伽(プロフ) - とても面白いです!! こんな文章かけていいなと思います、 これからも更新頑張ってください! (2016年10月3日 9時) (レス) id: 4cef1c3763 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - Jokerさん» ありがとうございます!頑張ります〜!<(_ _)> (2016年4月3日 10時) (レス) id: 99f0b4f5e8 (このIDを非表示/違反報告)
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