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vol.39 ページ40

「……。」


完全に言ってしまった後で気づく。
あんなことを言わなければ良かったと後悔する。
だけどもう遅い事は分かっていて。


「そう、ですよね。」


彼は必死に笑顔を作ろうと口角を上げる。
だけどそれは俺の好きなあの笑顔なんかじゃなくて。
一瞬で俺がしてしまったことの重大さに気づく。


「……俺が伊野尾さんの気持ちを分かる訳ないですもんね。」

「あっ……。」

「いや、大丈夫です。気にしないで下さい。俺が軽率だっただけです。」



あはは、とまた空笑いをして笑顔を作る。
そして一瞬だけ静まったかと思うと薮さんは勢いよく立ち上がる。


「あの、今日は帰りますね。ごめんなさい。伊野尾さんもゆっくり休んでください。」

「あ……。」


俺が返事をする前に、いや俺に返事をさせないように彼は急いで部屋から出て行った。
彼がほんの今まで座っていた椅子に目を向ける。
一瞬すぎて気持ちが追いつかなかった。



俺は一体、何をした?
彼に一体、何を言った?


それを改めて思うと、自分のしたことが最低だということが痛い程身に染みて分かった。
自分の自己満足の為に人を傷つけた。


結局俺は、誰かの為に何かをするということは出来ないのだろうか。



「……っ。」


そんなつもりじゃなくても、視界が徐々にぼやけていって。
温かい涙が頬を伝うのが分かった。



「うぅ…っ……!!」


ダン!と右手の拳を壁に叩きつける。
それだけじゃ気が収まらなくて、今度はベッドの隣の小さな棚に拳を叩きつけた。


ダン、ダンと鈍い音が静かな病室に木霊する。
それに俺の嗚咽が混じって、世界で一番の不協和音の旋律が部屋の中を占める。


そのとき、



ガシャン



「……!」



音に反応してそれまでの不協和音が止まり、再び静かな空間が戻って来る。
ベッドの下には、俺が拳を叩きつけた衝撃で棚から落ちた瓶が粉々になって散らばっていた。


少し前に俺がお願いして高木からもらった、海の砂が入った瓶。
瓶は砕け、砂は地面に散乱している。



「伊野尾くん何してるの?隣の患者さんからクレームのコールがあったん……え、どうしたの!?怪我してない?」


泣き腫らした顔に、痣ができている拳。
俺は顔を上げて高木の方に向き直る。



「高木先生。」

「どうしたの、改まって。」



「俺、手術は受けません。」


「…伊野尾くん。」




「嫌なんです。このまま生きることが、死ぬほど嫌なんです。」

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天凪(プロフ) - サクラさん» このような形になってしまい、本当にすみません…!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします! (2017年3月6日 8時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - そうだったんですねぇ、これからも頑張って下さい!! (2017年3月5日 19時) (レス) id: d7def24883 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - 萌伽さん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません!これからも頑張ります。温かい応援よろしくお願いします! (2017年3月5日 7時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
萌伽(プロフ) - とても面白いです!! こんな文章かけていいなと思います、 これからも更新頑張ってください! (2016年10月3日 9時) (レス) id: 4cef1c3763 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - Jokerさん» ありがとうございます!頑張ります〜!<(_ _)> (2016年4月3日 10時) (レス) id: 99f0b4f5e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:のみなぎ x他1人 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2016年4月1日 0時

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