vol.34 ページ35
side 薮
あれからアオさんこと伊野尾さんとは連絡を取ることが無くなった。
…と言うのも、突然ピタリと連絡が止んでしまったからだ。
もしかしたら携帯を使う事を制限されているのかもしれないし、何か大事な用事があるのかもしれない。
そう思う事にして、今はただ彼からの返事を待っている。
けれど本当は伊野尾さんにメールを送りたくて仕方がなかった。
もしかしたらメールに気付いていないんじゃないか、とか。
もしかしたら何かあったのではないか、とか。
嫌な予感が胸を締め付けて、気が付けばその事ばかりを考えるようになった。
それを何度繰り返しただろう。
何度もメールを送ろうとした。
それなのに最後の『送信』ボタンが押せなくて。
消してしまうのも何だか酷で、そのままの形で保存している。
どんどん積もって行くそのメールはいつしか行き場を失くした俺そのものを表しているようで。
今では新しいメールを送ろうとしても、カーソルのチカチカを数えるだけで一言も伝えることが出来ないでいる。
歌詞だけではなく、メールも書けなくなったのか。
そうやって自分を責めたてても何も生まれないのは痛いほどに分かっている。
でもそうしないと、このグチャグチャでメチャクチャな気持ちはずっと心の奥底に居座り続ける。
プリンを持って行った時の伊野尾さんの笑顔が脳裏から離れない。
彼はきっと今もあの白い病室の中にいるのだろう。
彼はあの部屋の外の、澄んだ青空へ飛び立つことを望む籠の中の鳥。
俺は自由な外から、確実な自分の鳥籠を求める自由な鳥。
彼は以前、メールのやりとりで自由な俺が羨ましいと言っていた。
でも俺はそんな風には思えなくて。
さすがに伊野尾さんにそれを伝えるのは失礼だから言わなかったけれど、心の中では伊野尾さんが羨ましいと思っていた。
……それでは誤解が生じてしまう。
伊野尾さんが羨ましいのではなく、彼の『置かれている環境』が羨ましい。
自由を剥奪、というと聞こえが悪いが実際はそういうことだ。
自由にしろと言われることほどの不自由はない。
結局、伊野尾さんは自分の現状を明かしてくれたのに俺は何も言えないままだった。
きっと彼にとって『理想の人』を演じてしまっているのだろう。
でもね、こんな奴に憧れるなんて二度と言っちゃ駄目だよ。
俺は、そんな立派な奴じゃない。
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天凪(プロフ) - サクラさん» このような形になってしまい、本当にすみません…!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします! (2017年3月6日 8時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - そうだったんですねぇ、これからも頑張って下さい!! (2017年3月5日 19時) (レス) id: d7def24883 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - 萌伽さん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません!これからも頑張ります。温かい応援よろしくお願いします! (2017年3月5日 7時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
萌伽(プロフ) - とても面白いです!! こんな文章かけていいなと思います、 これからも更新頑張ってください! (2016年10月3日 9時) (レス) id: 4cef1c3763 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - Jokerさん» ありがとうございます!頑張ります〜!<(_ _)> (2016年4月3日 10時) (レス) id: 99f0b4f5e8 (このIDを非表示/違反報告)
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