vol.31 ページ32
「ファインさ……フィーネさん、お時間は大丈夫ですか?」
正確には分からないが、恐らく俺がここに来て10分は経っているはずだ。
あまり面会に来る機会がないため、どうしていいか分からなかった瞬間だった。
……それにしても、名前の読み方を間違えられるのは当然だろうなと思った。
英語の授業でもかなり初期の段階で『fine』を習っているから大方の人は『ファイン』だと思っているだろう。
これでは自己紹介の際に『私はフィーネです』が『私は元気です』になってしまう。
もちろん口で言う分には発音が違うからいいものの…。
「……薮、でいいですよ。」
ややこしいのなら、いっそのことと思って提案したのだが当の本人はぽかんと宙を見つめていた。
…もしかしたら彼の中の俺の印象は『fine』であって『薮』ではないのかもしれない。
どちらも同じ俺だけど、彼の中ではそうじゃないのかもしれない。
自分では気づく事の出来ない、『fine』と『薮宏太』の違いに頭を悩ませる。
ぐるぐると思考が絡まって、やがて何とは形状しがたい一つの塊になった時、
「じゃあ俺も伊野尾って呼んでください。」
ニコリと笑うその表情は、何故か脳裏に焼きついた。
初めて会う人なのに、初めて見た笑顔なのに。
それなのにどうして『懐かしい』と思ってしまうのだろう。
「薮さんの持ってきてくれたプリン食べませんか?」
「あ、忘れてました。食べましょう!」
それから二人でプリンを食べて。
お互い、このプリンに対する思い出は別々のもので。
同じ空間に居るのに、その時だけはお互いに違う思い出を辿って。
そのあとは少しだけ他愛のない話をして。
長居するのも悪いから、と椅子から立ち上がる。
特にこの後の予定はない。
だけど何となく、心が軽くなって。
俺の上に覆いかぶさっていたものが数段軽くなったような気がして。
『今なら何か書けるかもしれない』
そんな淡い希望を抱いて。
「あの、もし迷惑でなければ連絡先、交換しませんか?」
帰り際、俺はポケットからスマホを取り出した。
それを見てアオさん……伊野尾さんはパッと表情を輝かせる。
その後、お互いに連絡先を交換して。
暇な時でいいんで連絡してください、と言い残して部屋を出る。
数少ない友人や両親、それから同業者や仕事関係の人で埋め尽くされていた連絡先に新たな名前が加わった。
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天凪(プロフ) - サクラさん» このような形になってしまい、本当にすみません…!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします! (2017年3月6日 8時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - そうだったんですねぇ、これからも頑張って下さい!! (2017年3月5日 19時) (レス) id: d7def24883 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - 萌伽さん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません!これからも頑張ります。温かい応援よろしくお願いします! (2017年3月5日 7時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
萌伽(プロフ) - とても面白いです!! こんな文章かけていいなと思います、 これからも更新頑張ってください! (2016年10月3日 9時) (レス) id: 4cef1c3763 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - Jokerさん» ありがとうございます!頑張ります〜!<(_ _)> (2016年4月3日 10時) (レス) id: 99f0b4f5e8 (このIDを非表示/違反報告)
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