私に興味がない凪くん。【凪誠士郎】

▼無理に笑わせてしまってる ページ32

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しまった、と思ったがもう遅い。彼女の顔は引き攣り口はきゅっと結ばれた。今まで見た事のない、明らかに傷ついた様子だった。


いつも何を言っても何をしてもヘラヘラと笑っているから勘違いしていたのだ。彼女は俺が好きだというだけのただの女の子なのだ。俺の言動で彼女が傷つく事だってあるはずなのに、それを頭に入れていなかった…完全に。


考えてみればわかったはずだ。この数週間、休み時間や放課後を勉強に費やし、こんなに口数を減らすまで疲弊しているのに、俺の台詞はそれを全て否定したようなものだ。だからこうして彼女が傷ついている。


それでも彼女はヘラッと薄く笑った。





『んー……凪くんはホントに要領がいいからなあ。私みたいな凡人の悩み、わかるはずないか』


「(なんで笑…いや、俺が笑わせてるのか)」


『…ごめん凪くん、私眠いや…』





おやすみ、とそのまま机に突っ伏してしまう。これは彼女の優しい拒否だ。これ以上ここにいるべきではない。そう思い、静かに鞄を取って教室から去った。


心臓が嫌にバクバクと鳴る。こんなに人の表情や発言に気が踊らされるのは始めてだった。普段俺にヘラヘラしていた人間の素を見て、珍しく俺は好奇心に駆られたのだと思う。無意識に。



__こう言ったらどんな反応をするのだろう。



その好奇心に従ってしまった事を後悔してる。桃原はどう思ったんだろう。傷つけてしまった、あんな顔をさせてしまった。…嫌われてしまっただろうか。


実を言うとあそこまで明らかに恋愛的な好意を向けられたのは桃原が初めてだった。しつこさは玲王よりも格上だけど、あんな風に自分を肯定してありのままを受け入れてくれる人はそういなかった。


いつも幸せそうに笑うもんだから、驕(おご)っていたのだ。俺が桃原にしてやった事は何一つなかったのに。その唯一が傷つけただけだなんて、さすがに人情が疑われる。





「お、凪じゃん。何突っ立ってんの？」


「あー…と」


「薫ね。こっちは優愛。…んで？」


「や、別に。もう帰るよ」


「あ、じゃあA見なかった？眠そうだったからアイツの分まで購買に買い出しに行ってたんだけど」


「…寝ちゃったよ」


「え、Aが？珍し」


「えー、せっかくプリン買ってきたのに」





クラスメイトたちが桃原を話題にしているのに気まずさを感じて俺はさっと靴箱へ向かった。






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