立つ鳥跡を残さずⅢ【wr/wr/d】 (ページ21)

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｢私が能無しなら、私に血を分け与えた、父と母も能無しでしょう。最も、能無しから血を受け継いだ兄さんは、驚くほどの才能を持っていましたけれど｣

私の態度に、ガズの顔がみるみるうちに怒りで赤く染まった。
まったく、忙しいな、こいつの感情は。

｢お前っ！私達を馬鹿にしているのか！｣
｢あらあら、叔父様、ご冗談を。貴女方は、まだ馬鹿と言える領域にすら届いていないでしょう｣

浮かべていた微笑を引っ込め、今度はガズを冷たい目で見据える。
こいつのように、無駄に大きな態度で権威をひけらかすような奴は、小心者のことが多い。だから、自分より弱いと思っていた相手に突き放されると、大体の場合はボロが出る。

｢……｣

予想通り、ガズは私から視線を逸らし、再び俯いた。その、体を丸めている姿が、異様に小さく見えた。

さて、まだ、父母にも言いたいことがある。
今度は父母の方に向き直り、口を開く。

いや、そのつもりだったのだが。

｢貴方達！この娘を殺されたくなかったら、私達を今すぐ解放しなさい！｣

気付いたときには、自分の首元に冷たい刃物の先が向けられていた。
そして、この気分が悪くなりそうな程、強い香水の臭い。キンキンと高い声。
これは、紛れもない私の産みの母親だ。

私は、あの人に腕で拘束されているのか。

その事実に気付いたとき、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
この人が、怖い。

｢ちょっと！聞いているの？！この私が、わざわざこんなことをしてまで、貴方達に話し掛けているのよ！私を誰だと思っているの？！｣

支離滅裂なことを叫ぶ母は、私の首に回した腕で、ぎゅうぎゅうと私を締め付けた。

あぁ、また殴られる。怖い、こわい……。
幼い頃、母に殴られ蹴られたときの記憶が蘇る。
あのとき、彼女は私の髪を掴み、何度も頬を平手打ちした。酷いときには、頭を掴まれ、湯の張った浴槽の中に顔を沈められたこともあった。

恐怖から、ぎゅっと目を瞑る。

｢貴女らを解放したところで、我々に何のメリットがある？｣
｢何を……！！まだ理解できないの貴方は？！私が解放しなさいと言っているの！｣
｢だから？｣
｢私がことは聞かなければいけないのよ！私は――｣

気違いのように喚く母を、グルッペンは嘲笑した。

｢……つまらんな、貴女の話は。中身もなければ、聞く価値もない｣
｢なっ！｣
｢言いたいことはそれだけか？｣

余裕綽々なグルッペンに、母は言葉を止める。

｢御覧頂きたいものがある｣