立つ鳥跡を残さずⅢ【wr/wr/d】 (ページ1)

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あいつはページ1

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久し振りに来るそこは、最後に来たときと何も変わっていないように感じた。
正確には変わっているのだ。
手入れがされていなかったため伸び放題の草。苔生した洞の中には、さらに苔生した木の机と3脚の椅子。

それでも、何1つ変わった物なんて無いように思えた。
足下に広がるのは、昔と同じ、名前も知らない小さな桃色の花。簡易的なブランコを付けて遊んだ、あの巨木。椅子の背もたれの後ろに彫った、それぞれの名前。夏に釣りをした、綺麗なあの小川。
きっと、形を変えてもなお、そこにあり続けたのだ。そして、これからもあり続ける。誰かが壊さない限り。ずっと。

何より、朧気な、美化されているのであろう想い出が、そこにはあった。不確かなそれは、そのときのままの温度を確かに保っていた。

木の裏を覗けば、幼い頃のAがいて、目を閉じて数を数えている。そのすぐ近くの草むらに、幼いアラタが身を潜め、少し離れた木の上には、同じく幼い俺が、楽しそうな顔でAを見つめているのだ。アラタと目が合えば、目配せをし、お互いにより一層息を殺す。
そんな気がした。そんな風景が、様子が、見える気がした。

でも、実際にはそんなことなくて。
俺の見下ろす先には、口の周りと腹辺りを血で赤く染め、力無く横たわったアラタがいた。いや、もう、体だけがただそこにあるだけかもしれない。

荷馬車の中には、アラタとA、俺、すぐ後に駆け付けたしんぺいさんしかいない。
他の人達には、しんぺいさんの気遣いで、外で待っていてもらっている。

アラタの体を診ていたしんぺいさんは、俺と、すぐ横でアラタの手を握るAを見て、言った。

｢これは、刺されたことによる出血多量死やな｣

″死″という言葉を聞いて、Aは俯いた。
そんなAに代わって、疑問点をしんぺいさんに尋ねる。

｢刺された、って、他の誰かにってことですか｣
｢……そうやな。断定はできんで｣
｢何故です｣
｢複数回刺されとるんよ、彼。自害しようと思ったなら、首とか心臓とか、1回だけで済むようなところを刺すはず。それに、刺跡が綺麗やない。犯人と争ったんやないかな。近くに凶器も無いし。多分犯人が持ってったんやろ｣

静かにそう告げたしんぺいさん。
我々国の幹部であり、医師でもある彼。きっと、人の死に立ち会ったことも少なくはないだろう。
そんな彼の表情から、彼の気持ちを読み取ることはできなかった。