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「A、起きろ」
聞きたかったその声がした気がして目を開けると、そこには焦凍が居た。
寝ていたのか…なんだか、長い夢を見ていた気がする。
ぼーっとしていた頭が覚醒すると、今日何があったのかが瞬時に思い出される。考えが巡るより先に、私の頭を撫でようとするその腕を掴んで身体を寄せた。
焦凍、無事だったんだね。良かった…。その存在を確かめるように力を込める。
私に回った逞しい腕は、安心させるように数回背を撫でた。
「良かった…無事で、ほんとに。心配した……。」
「わりぃ、心配掛けたな。大丈夫だ。」
子供をあやすような口振りで言う。それはまるで幼い頃のようで、懐かしさにふふと笑みが零れた。
「焦凍、連絡無視してごめんね。」
「あぁ…大丈夫だ。だけど、あれはちょっと…寂しかった。」
「ほんとにごめん…。あのね、話したいことがあるの。」
寂しいと素直に眉を下げる焦凍は、まるで子犬だった。どうしようもなく愛しさが込み上げて、あの頃のように戻りたいと思ってしまった。
何も知らず、隣に並んで『ヒーローになる！』と笑っていたあの頃に。
またそう言えるように、なるから。時間はかかってしまうかもしれないけど、私も焦凍に追いついて見せるから。
最寄駅に降り立ってから、私たちはいつもより幾分かのんびり歩いていた。焦凍は一歩が私より大きいはずなのに、いつも隣を同じペースで歩いてくれる。
「私、やっぱりヒーローになること、諦めたくないの。だから、頑張ることにした！」
ぽつりぽつりと、零すように最近のことを話した。沢山考えたこと、三奈ちゃんたちに言われたこと、体育祭で頑張ればヒーロー科に編入できるかもしれないこと。
それを聞いた焦凍は「そうか。」とだけ私に言った。冷たい言葉に聞こえるけど、その表情が嬉しそうに綻んでいることを、私は知っていた。
「今はまだダメダメだけど、絶対に焦凍を越して見せるから、油断しないでよね！」
「あぁ、…俺も、頑張らないとな。」
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作者名：浅葱。 | 作成日時：2021年5月25日 15時
