53.乃木だから ページ5
ガリっと肉が噛まれる音がその場に響く。
A｢っ…？！｣
突然の出来事に頭が追いつかない。
痛みに耐えながら私は自分の薬指に目線を落とした。
薬指からは血が垂れ流れ、くっきりと歯型の跡が残っている。
A｢…の、ぎ…？｣
乃木｢…ん、うわー、痛そ〜…｣
声を震わせながら名前を呼ぶと、乃木は顔を動かさず薬指を見つめてそう言った。
これって、竜くんもやっていた婚約の証…？
…なんで。
なんで、そんなこと…？
これじゃ、これじゃまるで……
乃木が、私のこと好きみたいじゃ＿＿＿
乃木｢俺の気持ち、伝わった？｣
A｢え…｣
顔を上げると、乃木は顔を赤くさせながら微笑んでいた。
それにつられて私の顔も段々と熱を持っていく。
ああ、これ、ほんとなんだ…
そう思った時、いや…その前からなんだか心が軽くなった気がした。
なんであんな話を信じてしまったんだろう。
乃木がそんなこと思ってないなんて事、自分が1番よく分かってるのに。
A｢っ、ごめん…！ごめんね、乃木…！｣
乃木｢えっ俺振られた？｣
A｢違う…！
疑って…ごめんね…｣
私がそう告げると、乃木は優しく頭を撫でてくれた。
それが心地よくて、大好きで…
竜｢…んで…なんで…？
なんでお前が"ソレ"を知ってる？？ああ、そうだ、あいつか。あいつ、いつまでも僕の邪魔をする。どいつもこいつも…どうして僕の邪魔をする！！！？｣
後ろから黒い空気が漂っている。
もう、大丈夫。私は立ち上がれる。
A｢竜くん｣
私は涙を拭って後ろを振り返った。
竜｢…もし、もしも手を差し伸べたのが乃木じゃなくて僕だったら…
君は僕のことを好きになってくれていた…？？｣
竜くんは悲しそうな顔でそう聞いてきた。
でもね、ごめん。
A｢竜くん、私はね…助けてくれたから乃木が好きって訳じゃないんだ。確かにきっかけはそれだったけど…
でも、例え助けてくれたのが竜くんでも、乃木に会う限り私は乃木のことを好きになってたと思うよ。｣
竜｢……乃木修一の何がそんなに君を惹き付けるの？｣
A｢…なんだろうね。もちろん、いい所は沢山あるよ。
けど、"乃木だからこそ惹かれた部分"があったんだと思う。｣
そう、多分…いや、私だから、乃木だから惹かれた部分。
ーーー
スランプです。
ーーー
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作者名：霊来 | 作成日時：2023年8月2日 13時
