捌拾弐 ページ35
「そろそろ帰らなきゃ。」
Aといると、時間の流れに気付かない。
でもまだ六時程で、急ぐ時間でもない。
また、何か事情があるのを感じた。
「送って行くよ。」
「ううん、帰りが暗くなっちゃうから良いよ。」
「平日の部活より早いよ。」
「休みは休むものって口癖でしょ。しっかり休んで。代表決定戦も待ってるんだから。」
前よりも大人びて、説得力のある口調。
立ち止まった俺の前を行く背中が、いつの間にか強くなっているような気がして、不安になった。
急かされて、仕方なく歩き出す。
「A、背伸びた？」
「たぶんそうかも。測ってないけど。」
「それに、痩せた？いや、引き締まった……？」
前よりも細く見えるけれど、か細さはない。
「うーん、ダイエット？」
なぜ疑問形なのだろう。
「不健康そうには見えないけど、あんまり痩せられると心配。」
「大丈夫、体調管理は厳しくされてるから。」
誰に……？
別れ際になって、溜まっていた疑問が溢れてくる。
このまま別れてしまいたくはなくて、最後に一つだけ聞いた。
「あのさ、A。」
「何？」
「……前に言ってたの、煉獄先生？」
Aが昔から慕っていたという相手。
何の根拠もないけれど、薄らと感じていたこと。
強いて言うなら、舞木が睨んでいたことでより確証を持った。
「……やっぱりお見通しだね。」
聞き逃してしまいそうなほど小さな声。
不思議と、悲しさはなかった。
「そうだな……負けない、って言っとく。」
Aは少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑う。
「やっぱり、笑顔の方が好きだよ。」
「ふふ、京治君も笑っててね。」
「もちろん。」
バス停に着いてしまった。
ここでお別れ。
「連絡する。」
「うん、待ってる。」
「会いにも行くから。」
「無理しないでね。」
寂しくなんてない。
またすぐに会える、会いに行く。
「試合、応援してる。」
「絶対勝つから、またね。」
そう言って手を振った俺に、Aは一瞬表情を曇らせた。
「ばいばい。」
いつも笑顔でまたね、と言ってくれていたはずなのに。
次会える保証がない気がして、咄嗟に手を掴んだ。
前とは違う、硬い掌。
言葉に詰まっていると、Aのスマホが鳴った。
それには出ず、じっと俺を見つめる。
「できない約束はしたくないから、ただの願望だよ。京治君、またね。」
晴々とした笑顔でAは手を振った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 529人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
noel(プロフ) - みおさん» ありがとうございます！ゆっくりのペースですが完結まで頑張ります！ (2022年3月21日 19時) (
レス) id: 546d15b4fb (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - ずっと更新待ってます！！！！！！ (2022年2月28日 23時) (レス) @page22 id: 861da81337 (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - ゆきなさん» 不定期作品に付き合っていただいてありがとうございます！これからもよろしくお願いします^_^ (2020年7月19日 18時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - これからも無理せずに頑張ってください！楽しみにしてます！ (2020年7月19日 16時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 苑歌さん» ありがとうございます^_^ 今後も頑張ります！！ (2020年7月19日 15時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：noel | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/noel_2/
作成日時：2020年7月19日 12時
