後楽園編15 ページ38
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辰馬さんが、その人混みの中に、ゆっくりと溶け込んで消えていく。
「なんかおかしいと思ったんだ。教師とかいいつつ、どこの学校か言わないし。学年主任っていうそこの人? どう見ても教師じゃないじゃん。なんなのその服、目隠し。あんた、宗教団体の回しもんか何かだろ?」
「………」
「結婚詐欺だ、結婚詐欺。騙して、俺から金でも巻き上げようとしてたんだ! こっちは真剣に婚活してるっていうのにさ。最低だよ、あんた」
落ち込むことなんかない。
だってこんなの、いつものことだから。
私から誰かが離れていくことなんて、当たり前のことなんだから。
必死で、何度も心の中で言い聞かせるのに、手の震えが止まらなかった。
目を閉じる。
あの言葉を言われるんじゃないかという恐怖が、私を包み込む。
そして、辰馬さんは「その言葉」を言った。
私を底なし沼ように捕らえて引きずりこむ、呪いの言葉を。
「親がいないと、まともにも生きれないか」
私は目を閉じた。
……親がいないことを気にしないっていうのが、お前の過去を受け入れたってことになるの?
五条さんの低い声が、ふと頭の片隅に響いた。
ぽろっと涙がこぼれる。こんなに涙って冷たかったっけ。
そう思うほど、ひんやりと凍っているように冷えていた。
突然、何かが吹っ飛ぶような音がした。
びっくりして振り返る。
辰馬さんが、数メートル先で鼻血を垂らして仰向けになって倒れていた。
「ちょっと恵、式神使いは手を大事にしなさいって、僕何度も言ってるよね?」
五条さんが恵みくんの頭を小突く。
恵くんは、丸く握りしめた拳を開いて、肩をすくめた。
「すみません、暗かったので手が滑りました」
「恵くん…」
「暗いからって手が滑ってるようじゃ恵もまだまだだね。気をつけるように」
「五条先生の手が滑りそうな気配がしたので、先に滑っておいたまでです。アナタが手を出すと、アクアスタジアムが全壊しかねないですからね。後処理する伊地知さんに申し訳ないんで」
「は? 何の話?」
五条さんが首を傾げる。
そのすきに、私は慌てて頬につたっていた涙をぬぐった。
私は少し咳払いして、高い声をだした。
「…行きましょうか。任務も終わったし」
五条さんが、こちらを見てかすかに微笑んでみせた。
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海星(プロフ) - 呪われし君に捧ぐ3を改めて作り直しました。よろしくお願いします。 (2022年7月1日 22時) (レス) id: 1b892b7b06 (このIDを非表示/違反報告)
緋雪(プロフ) - 10点評価連打したい作品…ありがとうございます(;;) (2022年6月26日 19時) (レス) @page49 id: 3c54e1abfa (このIDを非表示/違反報告)
Mami(プロフ) - 海星さん» 流石先生やることが違います (2022年6月21日 21時) (レス) @page44 id: a64b7436ba (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - あるふぁさん» ありがとうございます!! すごく嬉しいです! 頑張ります! (2022年6月20日 10時) (レス) id: 1b892b7b06 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - Mamiさん» かっこいい恵書けてよかったです! (2022年6月20日 10時) (レス) id: 1b892b7b06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2022年6月4日 16時