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「あ、零……」

 諸伏くんが、やべえ、と呟く。松田くんと萩原くんに喧嘩を吹っ掛けられたときはまるで動じなかったくせに、零くんの姿を見とめたとたん、いたずらを見つかった子供みたいに、さっと青ざめる。

 明らかに様子のおかしい諸伏くんに、わたしも不安になって零くんを見つめる。零くんはいつものポーカーフェイスを消し去って、その綺麗な顔を怒りで歪めていた。

「おい、松田、こいつヤバイ」

 妙な空気感を素早く感知した萩原くんがそう言ったが、どこまでも空気の読めない松田くんは、

「なんだ、このチワワみたいな顔のやつ」

 と極めて失礼な発言をぶちかました。
 しん、と水を打ったように静まり返る。
 諸伏くんが、瞳を閉じて「南無阿弥陀仏」と唱えているのが気にかかる。

「ガキはママのところへ帰れ」

 松田くんの一言で、零くんの透き通るような青い瞳に、獰悪な赤い炎が爆発した。

「……っざけんな」

 先に手を出したのがどちらか、早すぎて見えなかった。
 松田くんの大きな拳と、零くんの褐色の拳が交差する。肉を殴る激しい音がして、二人がもみ合って倒れる。

「ま、松田くん……!」

「零!」

「あーあ、やっちゃった」

 わたしが止めようと一歩踏み出すが、萩原くんが素早く後ろからわたしを抱え込んで遠ざける。

「おとなしくしときな。巻き込まれたくないだろ?」

「そ、そうだけど……」

 入学早々、これはまずいだろう。
 いくら食堂の喧噪から切り離された隅っこだとはいえ、激しく殴り合う二人に、じょじょに室内は騒がしくなる。
 悲鳴や怒号、野次が飛び交い、きれいに拭かれて脇によけられたトレイが、松田くんの背中にぶつがって、がらがらと崩れる。

「へえ……なかなかやるじゃねえか。俺の拳をまともに受けて立ってられたやつはお前が初めてだ」

 松田くんの瞳は、餌を目の前にした狂犬のようにギラギラと光っている。
 零くんがにやりと笑い返した。

「それはこっちのセリフだ」

「ぶっ潰してやるよ、パツキン野郎」

 その瞬間、ぐにゃりと零くんの顔が歪んだ。

「こらー!」

 わたしの叫び声を無視し、再び殴り合う二人。
 松田くんの額からは血が滲み、零くんも目が腫れて、唇が切れている。

「ちょ、とめてよ、萩原くん!」

「人間には無理だよ、Aちゃん」

 萩原くんが肩をすくめる。諸伏くんが横でうんうんとうなずいた。



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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
- あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
- そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
- 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時

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