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広い、ホテルの最上階。
まるで世界の全てを見下ろせるような、一面ガラス張りのスイートルーム。
革張りのソファが窓に向かい合うようにして並べられ、薔薇と洗剤とにおいが漂っている。
その窓をじっと見下ろす、一人の女性がいた。
こちらに背を向けた彼女は、後ろ姿だけでもはっとするほど美しかった。
波打つ黄金色の髪の毛。
黒いワンピースからのびたすらりと長い足。
俺の心臓が早鐘のように鳴り出した。
お前の大事な人。
父さんの声が、蘇る。
俺の、大事な人＿＿＿＿＿＿＿＿
ガラス越しにうつる俺に気がついて、ゆっくりと女性が振り向いた。
振り向かないでくれと願う気持ちと、なぜか泣きたいくらいに恋しい思いがごちゃまぜになって、息が詰まるほど苦しくなる。
真っ白な肌。
夜に舞う桜のような、美しい唇。
優しい光を宿した瞳。
「ヒカル、久しぶりね」
その声をきいた瞬間、俺はその場に崩れ落ちた。
ガタガタと震えがとまらない。
大事な人？
この人が………俺の大事な人だって？
「ベルモット……ち、ちがう…ベルモットじゃない…」
ベルモットはこんなに優しい目はしていない。
その目は＿＿＿＿＿＿＿
その美しく優しい目は、かつて俺と母さんが、二人きりで貧しくも楽しく暮らしていた頃のものだ。
あの男がやってきて、全てをめちゃくちゃにする前の………。
母さんは仕事で忙しくて、俺と過ごす時間はあまりなかったけど。でも、それでも、ほんのときおり、物凄く優しい目で俺を見てくれた。
「お、かあ、さん………？」
それは、前世の母、その人だった。
どうして母さんがここにいるのだとか。何故父さんが、俺の前世の母親のことを知っていたのだとか。
頭は混乱するばかりで、うまく働かない。
跪いて震えるだけの俺を、そっと彼女は抱きしめた。
その瞬間、頭の奥で何かがぶちっと切れた音がした。今まで俺をつなぎとめていたもの、理性の最後の一筋。
それらは全て決壊し、俺は目の前にいるのが女性だということも忘れて、彼女の胸ぐらをつかんでいた。
自分がもはや、何を考えているのか、自分でも理解できない。
ただ、低い声で獣のような唸り声をあげながら、俺は彼女に飛びかかった。
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やっち(プロフ) - 凄くいいお話でした。ありがとうございます (2022年9月11日 12時) (
レス) @page50 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
アラバ - もう……なんかもう…………………やばかったですほんとに…………このお話思いついて、それを文章に現せるのが尊敬です………………もうなんか、やりきれない思いとか、最後までぐっっと涙をこらえていないと見れない作品でした……………小説、お疲れ様でした(泣)！！ (2021年5月16日 1時) (レス) id: bed3b6d329 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 凄く泣けました!赤井さんや降谷さんとの絡みもとても素晴らしく主人公の設定もちゃんとしていて、なんかこう!言葉に表せないぐらい感動しました！！！！！！ (2021年5月6日 12時) (レス) id: 8b38c910a7 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - やはり神作品…何度読んでも泣いてしまうんです。責任とってください…！（謎） (2020年10月10日 7時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんでライム(プロフ) - めちゃくちゃに泣きました。二次創作ものでここまで感動したのは久しぶりです。一つの作品としてめちゃくちゃ楽しめました。作者様、ありがとうございました。 (2020年7月7日 23時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：海星
| 作成日時：2019年11月4日 14時
