121 ページ36
・
「……嬉しそうな顔、しないでくださいよ」
「嬉しいんだから仕方ない」
赤井さんがくすくす笑っている。
この人はいつも、俺がどれだけ真剣か全然わかっていない。
赤井さんがふと、真顔になった。
そしてそっと俺の耳元に唇をよせた。
「人はな、本当に大事な記憶はずっと覚えているらしい」
「はい？」
突然何を言い出すんだと赤井さんを見たが、赤井さんはいたって真面目な顔で俺を見下ろしている。
「前世の記憶が消えたとしても、君が本当に忘れたくないと思っている記憶なら、心の奥に残るかもしれない」
「気休めですよ、そんな……」
「そうとは言い切れないだろう。大丈夫。お前は俺のことを忘れないよ」
どっからそんな根拠のない自信がわいてくるんだよ。
つっこみたくなる衝動にかられるが、赤井さんの優しい目を見ていたら、もう口答えする気もなくなってしまった。
「忘れたら……どうします？」
だけど、少しは反抗してみたくて。
まあ、反抗といえるようなものではないんだけど。
ささやかな、俺なりの、まあ……最後の悪あがきってやつだ。
赤井さんの目の色が変わった。
あ、と思う間もなく赤井さんが握りしめていた俺の手に、そっとその薄い唇を口づけた。
「そのときは惚れ直させてやるから、安心しろ」
・
「A……さ、ん？」
「「あ」」
赤井さんが俺の手のひらに王子様めいた口づけをしたのと、部屋のドアが開いたのが同時だった。
ぽかんとたたずむ安室さんと、それから……小さくなった我が弟。
二人ともスーパーのビニール袋をさげて、馬鹿みたいに突っ立ってる。
「ああ、帰ったのか。ごくろうだったな」
赤井さんは今までのことは全て忘却のかなたに押しやって、にこやかな様子で二人を室内に迎え入れた。
そのすがすがしいまでのスルースキル、俺にも分けてくれ。
「ちょっと……さっき、何やってたんですか？」
どさっと買い物袋を床に投げ捨て、安室さんが赤井さんに突っかかる。
「あんた病み上がりのAさんにっ……！！！」
「おい兄さん、大丈夫かよ！？」
新一……じゃなかったコナンが真っ青な顔で俺のもとに駆け寄ってくる。
なんだか赤井さんといい雰囲気になりかけてたなんて、口が裂けても言えそうにない雰囲気だったので、俺はしおらしくうなずいておく。
「……心配かけて、ほんとごめん」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1569人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - 凄くいいお話でした。ありがとうございます (2022年9月11日 12時) (
レス) @page50 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
アラバ - もう……なんかもう…………………やばかったですほんとに…………このお話思いついて、それを文章に現せるのが尊敬です………………もうなんか、やりきれない思いとか、最後までぐっっと涙をこらえていないと見れない作品でした……………小説、お疲れ様でした(泣)！！ (2021年5月16日 1時) (レス) id: bed3b6d329 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 凄く泣けました!赤井さんや降谷さんとの絡みもとても素晴らしく主人公の設定もちゃんとしていて、なんかこう!言葉に表せないぐらい感動しました！！！！！！ (2021年5月6日 12時) (レス) id: 8b38c910a7 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - やはり神作品…何度読んでも泣いてしまうんです。責任とってください…！（謎） (2020年10月10日 7時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんでライム(プロフ) - めちゃくちゃに泣きました。二次創作ものでここまで感動したのは久しぶりです。一つの作品としてめちゃくちゃ楽しめました。作者様、ありがとうございました。 (2020年7月7日 23時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：海星
| 作成日時：2019年11月4日 14時
