86 ページ1
・
「そして俺は、一度死んだんです」
Aの言葉はにわかには信じられないようなものだったが、彼が嘘をついている様子は微塵も感じられなかった。
「そして、前世の意識があるまま、生まれ変わりました」
「……そういえば、君は工藤夫妻の天才ベイビーなんて、言われてたらしいな」
以前インターネットで調べた記事を思い出して俺がそういうと、Aは自嘲的な笑みを浮かべる。
「そりゃあそうっすよ。だって十八歳の記憶のまま、赤ん坊やってたんですから。だから十八歳になる頃には年齢に記憶が追い付いて、今ではほら、ただの凡人です」
肩をすくめるA。
「もう一人の君は、意識がない時に現れるといったな？ 何か手掛かりはないのか？」
「手がかり？」
「そのもう一人の君に関する手がかりだよ」
あるにはありますけど、と言葉をにごすA。
「今はありません。屋敷の書斎に……」
「屋敷？ 工藤邸か？」
「はい」
まずいな、と思う。屋敷には赤井がいるはずだ。
俺は工藤邸に乗り込むことはできない。
「……そういえば、赤井さんに連絡してねえ」
Aが思い出したように呟いた。Aの口から赤井の名前が出た瞬間、また言いようのない憎しみが湧き出てきたが、唇をかんでそれを押し込めた。
Aがスマホの画面を開く。
「あ、あれ……連絡一件しか着てない……」
どこか拍子抜けしたような顔をするA。
しかしその横顔はどこか、寂しそうでもある。まるで恋人に構ってもらえなくて拗ねているような、そんな感じだ。
苛立ちが募っていくが、俺は静かに耐える。
「ちょっと連絡してみます……待ってください」
俺にことわってから、Aが電話をかける。
しかしどうやら電話が繋がらないらしい。しきりに首をかしげ、何度もコールしているAに、俺はとうとう我慢が切れて、その携帯をひったくった。
「君のことを心配していない男のことなんて、放っておけよ」
「……え、いやでも…」
いつもは心配してくれるんですよ、そう言って曖昧に笑うAに、どうしようもない怒りと嫉妬がこみあげてくる。
「そんなの工藤夫妻に対するただの建前だろう。君がこんな夜遅くなっても帰ってこないのに、電話に出ないのがいい証拠じゃないか」
Aが黙り込む。
ひそめた眉の下の瞳が、どこか寂しげに歪んでいるのには、気が付かないふりをした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1571人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - 凄くいいお話でした。ありがとうございます (2022年9月11日 12時) (
レス) @page50 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
アラバ - もう……なんかもう…………………やばかったですほんとに…………このお話思いついて、それを文章に現せるのが尊敬です………………もうなんか、やりきれない思いとか、最後までぐっっと涙をこらえていないと見れない作品でした……………小説、お疲れ様でした(泣)！！ (2021年5月16日 1時) (レス) id: bed3b6d329 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 凄く泣けました!赤井さんや降谷さんとの絡みもとても素晴らしく主人公の設定もちゃんとしていて、なんかこう!言葉に表せないぐらい感動しました！！！！！！ (2021年5月6日 12時) (レス) id: 8b38c910a7 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - やはり神作品…何度読んでも泣いてしまうんです。責任とってください…！（謎） (2020年10月10日 7時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんでライム(プロフ) - めちゃくちゃに泣きました。二次創作ものでここまで感動したのは久しぶりです。一つの作品としてめちゃくちゃ楽しめました。作者様、ありがとうございました。 (2020年7月7日 23時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：海星
| 作成日時：2019年11月4日 14時
