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自分でも自分が分からなくて、言いようのない寒気が体の奥の方から這い上がってくる。
思わず唇を震わせたら、降谷さんが黙って俺の手に、彼の手をそっと重ねた。俺と同じくらいか、それより少し大きいかというくらいの、褐色の手の甲をぼんやりと見つめる。
「俺……どうなると、思いますか？」
「………どうなるって？」
「そのうち訳わかんなくなって、人とか殺しちゃったりすんのかな……ねえ、俺が俺じゃなくなったら、家族との記憶も全部なくなってしまうと思いますか？」
「それは………」
こんなこと、降谷さんに尋ねたって仕方ないのに。
俯いてフローリングの木目を眺めているせいで、降谷さんがどんな顔をしているのかは分からなかった。
そっと肩にぬくもりがふれる。
それが降谷さんの腕だと気がつくまで、数秒かかった。
「君がどんな風に変わっても、たとえ記憶がなくなっても、君の周りの人たちは、君のことを忘れていない。
君のご家族や、知り合いにとって、AさんはAさんだろう。
俺だってそうだ」
「………そうっすかね」
苦笑いすると、そうだよ、と少し憮然とした声が降ってくる。
「それに俺がいる限り、君を人殺しになんてさせない。絶対にな」
だからくだらない心配するな、と笑う降谷さんに泣き笑いのような声が漏れた。
何か言おうとしたのだが、声にならずに嗚咽が漏れる。
降谷さんがそっと手を伸ばしたのと、俺がかき抱くように手を伸ばしたのが一緒だった。
伸ばした指先が絡まって、そのままお互いお互いを引き寄せるように力を込める。
気がつけば、降谷さんの額が肩に触れていて、今度こそ泣きたいくらいに切なく暖かだった。
「………こわい、んです。ずっと、怖かったんです…」
「ああ………」
「ちょっと、泣いても、いいですか」
「もう泣いてるだろ」
呆れたような口調だったが、声は優しかった。
降谷さんが俺の頭をそっと撫でる。
俺は静かに体を震わせた。
そう。俺は怖かったのだ。
ずっと。
大切なものを失うのが。
やっと手に入れたはずの、人並みの幸せを。
失いたくなかったのだ。
ぎゅっと降谷さんの肩にすがりつく。
今だけは。
今だけはいいよな。
そう自分に言い聞かせたら、降谷さんが俺の頭を撫でるたびにこみ上げる心地よさも、甘さも、全て受け入れられる気がした。
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やっち(プロフ) - 凄くいいお話でした。ありがとうございます (2022年9月11日 12時) (
レス) @page50 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
アラバ - もう……なんかもう…………………やばかったですほんとに…………このお話思いついて、それを文章に現せるのが尊敬です………………もうなんか、やりきれない思いとか、最後までぐっっと涙をこらえていないと見れない作品でした……………小説、お疲れ様でした(泣)！！ (2021年5月16日 1時) (レス) id: bed3b6d329 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 凄く泣けました!赤井さんや降谷さんとの絡みもとても素晴らしく主人公の設定もちゃんとしていて、なんかこう!言葉に表せないぐらい感動しました！！！！！！ (2021年5月6日 12時) (レス) id: 8b38c910a7 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - やはり神作品…何度読んでも泣いてしまうんです。責任とってください…！（謎） (2020年10月10日 7時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんでライム(プロフ) - めちゃくちゃに泣きました。二次創作ものでここまで感動したのは久しぶりです。一つの作品としてめちゃくちゃ楽しめました。作者様、ありがとうございました。 (2020年7月7日 23時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：海星
| 作成日時：2019年11月4日 14時
