検索窓
今日:116 hit、昨日:160 hit、合計:1,522,431 hit

零と霊編13 ページ39

その日、安室さんは一日中私に付き添ってくれて、離れようとはしなかった。

一睡もせずにじっと私を見つめる安室さん。

時々、頭を撫でたり手を握ったりしてくれる。私はそれを空中で眺めながら、安室さんと何も話せない現在の身を、改めて呪った。

『今なら霊の気持ちがわかるよ』

大切な人に、言いたいことを言えないもどかしさ。悲しさ。寂しさ。


本当なら、今すぐにでも安室さんに駆け寄って『私は大丈夫です! ちょっと只今、幽体離脱してまして……』って説明したい。私は元気だよって。

安室さんを安心させてあげたい。


だけど、今の私には、安室さんのためにしてあげられることは何もないのだ。


魂だけの今の私は、眠くもならない。お腹も空かない。
でも安室さんは違う。きっと眠いだろうし、お腹も空くだろう。


『いったん帰ってよ、安室さん……寝たほうがいいよ……』


何度も祈るように耳元で囁いたが、安室さんの視線は私のベッドに注がれたまま、頑として動かない。
安室さんはそのまま一晩、私のそばにずっといてくれた。

やがて朝になって、おもむろに立ち上がると、


「今から仕事に行ってきます……今日の夜、また来ますね」


私の頰をそっと撫でてから、安室さんは病室を出て行く。


それを見送ってから、私ははっとした。

これはもしかしたら、安室さんの仕事を突き止める最大のチャンスじゃないか?


彼の仕事がいったい何なのか分かったら、安室さんの頭に湧き出る黒雲の謎が解けるかもしれない。


『私、ちょっと行ってくる!! スコッチさんはどうする!?』


『いやぁ、俺はいいよ。霊力が弱まってるからさ。あんまり動きたくないんだ』

そう言ってひらひらと手を振るスコッチさんを残し、私は慌てて安室さんの後を追った。


安室さんは病院の駐車場に停めていたrx-7に乗り込むと、首都高に車を走らせる。


どこに行くんだろ……?


朝靄にかすむ都会を走り抜け、もう一度車が停車する頃には、もうとっくに太陽は真上にのぼっていた。

安室さんが車を止めたのは、寂れたビル。5階建てで、剥き出しの鉄筋コンクリートが光っている。人通りはほとんどなく、あたりは閑散として、その小さな建物を取り込むようにして大きなビルが建ち並んでいるので、完全に太陽の光がシャットアウトされて、朝なのにまるで夜みたいだ。

なんか、気味が悪い場所だ。
B級映画の肝試しにでも出てきそうな……


こんな所になんの用なの?

零と霊編14→←零と霊編12



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (980 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2453人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- え、え、、突き落とされて刺されそうになったのに許す意味が分からない…周りのみんな甘ちゃん過ぎる… (2022年6月11日 4時) (レス) id: b95582035d (このIDを非表示/違反報告)
さち - すごくおもしろいです。続きが気になって読んじゃいました。よろしくお願いします。 (2019年2月7日 9時) (レス) id: 16ee8f1076 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - salomeさん» ハマっていただけて、本当に嬉しいです……! 更新頑張れます! ありがとうございます! (2018年5月17日 17時) (レス) id: 5a53eb76ac (このIDを非表示/違反報告)
salome - いつも見ていますこの小説かなりハマりました更新されるたびに面白く感じたりハラハラドキドキしたり今回夢主がストーカーに刺されて重症になって安室さんも夢主に対して自覚からマジ恋に目覚めて夢主早く意識覚まして安室さんを安心させて欲しい (2018年5月17日 14時) (レス) id: 31aa9c013b (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 秋都さん» 朝から嬉しくて号泣です……ありがとうございます……! (2018年5月17日 7時) (レス) id: 5a53eb76ac (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:海星 | 作成日時:2018年5月2日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。