ノクターン第13番 Vl

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「…ごめん。篤人くんでも、そんな風に思ってくれるんだと思って、」

篤「…は？」






”行かないでよ。頼むから、ここに居て。”






先程の彼を思い出す。

必死に 私の背中を抱きしめてくれた彼を。






「…凄く、嬉しい。笑」






眉間に皺を寄せながら、声にならない声で唸る彼。

益々照れ臭そうに耳を赤く染めると、自分の頭をワシャワシャと掻いて、






「ふっ」






私が幼馴染と居たって嫌な顔一つしない。

そんな彼のこんな姿を見れて、嬉しいなんて思う私は嫌な女だろうか。






ありのままを見せてくれた彼に、
一層愛しさが増す。






「……じゃあ、次は私の話を聞いてくれる？」

篤「…ん？」






だから、次は私の番だ。

愛しい貴方に、
今度は私がありのままを見せる番。






「私こそ、ちゃんと話さなくてごめんなさい。」

篤「いや、だからAは悪くな、」

「ううん、聞いて？」

篤「………」






制止を遮り頭を下げた私に、彼は少し驚いたような顔をした。

でも諦めたように小さく溜息をつくと、
ただ黙って、私の話に耳を傾ける。






「…普段だったら、何気ない会話の中で亮ちゃんのことを普通に話してたと思うの。」

篤「？」

「いつもは”クソつまらない”事まで、全部篤人くんに話しちゃうでしょ？私。笑」

篤「ふっ、」






「………でも最近は…篤人くんと話さないようにしてたんだと思う。…無意識のうちに。」

篤「…？」

「篤人くんを見ると焦ってたから。……私よりずっと辛い状況にいるのに、前向きに頑張ってる篤人くんを見て凄く焦った。」

篤「………」






どんどん思うように指が動かなくなる原因を、
本当はどこかで分かっていたのかもしれない。






ーーーVergangen…



＜相馬くんといると苦しいの…
好きなのに、大好きなのに……妬ましくて…＞

＜もうこんな自分見せたくない…
ごめん…ごめんなさい…＞



ーー






あの刻の汚れた感情と現在が、
少し重なっていたのだ。






「………私は、誰かの活躍を妬ましく思う汚い感情を持ってるの。…それで、自分の音が汚れていく事も知ってる。……だから、またそうなるのが怖くて、」

篤「………」

「きっと篤人くんを見ないようにしてた。………ごめんなさい。」






あの刻私は幼馴染から逃げた。そしてまたきっと、彼から逃げようとしていたのだろう。

でももう、
そんな事を繰り返してしまいたくはない。

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