ノクターン第13番 Vl

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式は冬にずらすことに決めた。というのも、今は互いに夢の大舞台に集中したかったからだ。



この夏に大きな節目を迎える、彼と 私。



ずっと見たかった景色の先に何が待っているのか、私たちは何を見つけるのか、

今はただ 楽しみで仕方がなかった。






篤「書いた？」






リビングに戻ってきた彼は、まだ真っ新なままの婚姻届を見て呆れたように笑う。

”時間ないっつってんでしょ。”と溜息を零しながら、私の隣に腰掛けて、






「だって、こういうのはやっぱり二人で書いた方が、」

篤「はいはい。これでいい？」






気怠そうに頬杖をつき、”さっさと書け”と無言の催促をする彼。

丁寧に一文字一文字ゆっくり書き進めれば、”おっせ”と彼が笑って、






篤「じゃあ次俺ね。」






隣に”内田篤人”と書き進める彼もまた、案外丁寧にゆっくり書いているのだから可笑しくなって私も笑った。






篤「…よっしゃ、良いんじゃね？」






書き終えた婚姻届をバッと彼が掲げ、暫く二人でそれを眺める。



”写メっとく？”なんて言う彼の提案により、

婚姻届のみを一枚、婚姻届とそれぞれのツーショットを一枚、婚姻届と二人のスリーショットを一枚、四回もの記念撮影を済ませ、






篤「違う違う。俺時間ねーんだって。」






ふと我に返った彼は、丁寧に婚姻届をたたみスーツケースにしまうと、慌ただしく玄関へと向かって行った。






「気をつけてね？」

篤「うん。」

「焦って転ばないように、」

篤「あ？馬鹿にしてんの？」






”じゃね”と急いでドアノブに手をかけた彼。

でも足を止めこちらに振り返ると、”来い来い”と言わんばかりに人差し指で私を呼ぶ。






「？」






照れ臭そうに私の頬を撫でた彼は、
唇に一つ 触れるだけのキスを残してくれた。






篤「…じゃ、健闘を祈る。」

「…うん。篤人くんも。」






額を合わせ互いの活躍を祈った私たちは、

きっと 誰よりも強く輝けるだろうー






篤「いってきます。」

「いってらっしゃい。」









ー5月12日ー

ブラジルW杯に挑む23名の精鋭達が発表された



川島永嗣 西川周作 権田修一 今野泰幸
伊野波雅彦 長友佑都 森重真人 内田篤人
吉田麻也 酒井宏樹 酒井高徳 遠藤保仁
長谷部誠 青山敏弘 山口蛍 大久保嘉人
岡崎慎司 本田圭佑 香川真司 清武弘嗣
柿谷曜一朗 齋藤学 大迫勇也



彼らもまた、
一つ上の結果を求めてゆくのだろうーー

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