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5月12日
第一次予選の審査結果が発表された。
第一次予選通過者 24名
No.58 篠崎A セミファイナル進出ーー
松「はぁ…良かった。」
貼り出された審査結果を眺めながら、松原さんが安心したように深く息を吐く。
私はその隣で、何となくくすんで見える自分の名前をただ真っ直ぐに見つめていた。
松「正直ダメだと思った。」
「…はい。」
松「バッハは酷いし、スクリャービンなんてしつこ過ぎて胃もたれしそうだったし、」
「…そうですよね。」
勝負事は結果が全てだ。
でも、あまりに内容が酷すぎた。
バッハを弾いた4分間、私は客席に何一つ訴えかけることが出来なかっただろう。
スクリャービンを弾いた3分間、自分ばかりを主張して、楽曲本来の魅力を伝えることが出来なかっただろう。
松「ま、スカルボは相変わらず圧巻だったけど。ソナタもまあまあ。」
「…はい。」
松「そっちが評価されて一次通過って事でしょ。とりあえず良かった。」
「………」
練習の成果を、一割も発揮することが出来なかった。
私はあの舞台の上で、その異様な空気と緊張感にまんまと呑み込まれてしまったのだ。
「…ぎりぎり、でしょうか、」
松「多分ね。」
多分きっと、合格ラインぎりぎり。
7分間も観客に無意味な音楽を聴かせてしまった。緊張に押しつぶされ、焦って、自分の音楽が上手く表現出来なかった。
内容は、最悪だ。
松「あー、安心したら腹減った。とりあえず何か食いに行こう。」
「…はい。」
無意識に溜息を漏らしながら、会場の出口へと向かう。
聴こえてくるのは歓喜の声、
そして、啜り泣く悲哀の音、
今日は審査結果発表のみのため、ロビーにはライバルである出場者とその関係者の姿しかない。
うな垂れる敗退者を横目に、私はまだ通ったから良かったんだなんて、醜い安心感の中少しの優越感を感じてみたり、
次は私がその立場になるのかもしれないなんて、今考えても仕方のない不安に苛まれたり、
「…?」
出口まで向かうロビーの中、
一際大きく響くヒールの音に顔を上げる。
私たちの目の前から歩いて来たのは、
ストレートで長い黒髪を靡かせ、まるで私を睨みつけるような、見下すような瞳をする、
一人の日本人女性だった。
『篠崎A、』
「…え?」
『覚えてないの?私の事。』
No.49 野田茉希ーー
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laiz(プロフ) - うっちーさん» リラックス効果高けぇ、何だか懐かしい台詞ですね(*^^*)読み返して下さりありがとうございます。二人の出会いも懐かしい…(^-^)続編ではようやく二人の生活が戻ってきます。また癒しを沢山提供できるよう頑張りますので、是非覗きにいらして下さいm(_ _)m (2014年3月14日 21時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 祐さん» ありがとうございます(*^^*)二人とも早く会いたくてウズウズしていますね^ ^やっと二人の生活が戻ってきます。続編作成いたしましたので、是非覗きにいらして下さいm(_ _)m (2014年3月14日 21時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
うっちー(プロフ) - ほんとこの小説は癒やされます。篤人さん風に『リラックス効果高けえ』です。最近また最初から読み直してます。「そういえば二人の出会いのきっかけは槙野だったなぁ」なんて懐かしく思ってます。続きを楽しみに待ってます。 (2014年3月13日 10時) (レス) id: 30fdb895e9 (このIDを非表示/違反報告)
祐(プロフ) - ノクターン第13番鵺お疲れ様です(^^)お互い再会が待ち遠しい感じが伝わってきます☆更新大変だと思いますが、楽しみにしていますm(__)m (2014年3月13日 1時) (レス) id: dac0be65c1 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» こんばんは。楽しみに待つ内田さんと、それを気持ち悪がる母、ほっこりの回でしたね(*^^*)あー早く二人の再会が書きたい。でも、焦らすのも好きです^ ^笑"ななさん、このシリーズの結末まで是非お付き合い下さい!それまで楽しんで頂けるよう、頑張りますo(`ω´ )o (2014年3月12日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2014年2月15日 20時