ノクターン第13番 ll

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篤「…冗談って言ったっしょ、」






"8月にゲルゼンキルヘンに帰る。"



そう告げた瞬間、PC画面の中の恋人は驚いたように目を丸くして、

まるでドラマかアニメのワンシーンのように、手に持っていた漫画本をぽとりと膝の上に落とした。






篤「…仕事は大丈夫なわけ？そっちで順調なんじゃねーの？」






躊躇いがちに漫画本を拾いあげる彼。

その表情は決して歓喜などではなく、"ごめん"と今にでも聞こえてきそうな程複雑な顔。






篤「…いいの？まじで、」






そんな彼の反応は、どれ程私のことを考えてくれているのかを伝えてくれる。

自分のことより、何より私を一番に想ってくれていることを教えてくれる。






今までも、いつでも、そうだったように。






「別に、篤人くんに言われたから帰る訳じゃないよ。」

篤「………」

「自分の仕事にメリットになることを一番に考えてって言われて、それならゲルゼンキルヘンに帰ろうって。」






不思議そうに私を見る彼。

でもこれは決して、矛盾なんかではない。






「ちゃんと、お仕事優先で考えました。」






胸を張ってそう言えば、彼は小さく息を吐き、






篤「…そ。」






少し安心したような顔をして、手元の漫画に目線を落とした。






「楽しみだな。久しぶりのゲルゼンキルヘン。」

篤「別に何も変わんないけどね。」






いつものように、漫画をペラペラと捲りながらそう答える彼。






篤「あ、でも近くにケーキ屋出来たって。」

「そうなの？食べた？」

篤「食べてない。あんな混んでるとこ並びたくねーし。」

「混んでるってことは、きっと美味しいんだよ。帰ったら並びにいこ。」

篤「一人で行ってね。どーせケーキ選ぶのも時間かかるんでしょ。」

「ふっ、わかった。笑」






でも良く見えないその表情は、少し頬が緩んでいるようにも見える。






「お土産何がいい？」

篤「は？いらない。キモい置物とか買ってこられたらたまったもんじゃないんで。」






"あのサンタみたいなね。"と顔を上げた彼の頬は、やはり私と同じように緩んでいた。






篤「8月、だっけ？」






iPhoneを手に取った彼。






「うん。」






多分カレンダーであるそれをスライドさせながら、一つ、二つ、指を折る。






篤「ふーん。…じゃ、お待ちしてます。」






照れ臭そうにそう呟いた彼は、今まで見た事もないような笑顔で、

とても嬉しそうに笑っていたー

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