ノクターン第13番 ll

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「ありがとう。」

篤「どんな景色でした？世界一になった舞台の上は、」

「んー…あまり見えなかった。笑」

篤「ふっ、そーでした。笑」






"顔ぐっちゃぐちゃにして号泣してたんだった。"と、昨夜の私の真似をする彼。

久しぶりに重なった笑い声が、一ヶ月間張り詰めていた私の心を解いてゆく。






篤「鼻水垂れてたよ。」

「え？」

篤「授賞式。」

「嘘っ？」

篤「嘘。」






またからかうようにケラケラ笑う彼。






「…もう、」

篤「でも顔は酷かったけどね、割とまじで。あんなん世界中に中継されるとか、俺だったら死ねる。笑」

「………」






こんな憎まれ口さえも、一ヶ月振りなら愛の言葉に聴こえてしまう。

きっとそれは、その表情があまりに優しすぎるからだろう。






「見ててくれてたの？時差で大変じゃなかった？」

篤「あ？あー…まぁ寝ながらね。チラ見程度に。」






不自然に目線を逸らした彼の後ろから、クスクスと小さな笑い声が聴こえてくる。

"そこツンで攻めるんすか、先輩。"と笑い声混じりのその声は、久しぶりに聞く彼の親友のものだった。






麻「Aさん、おめでとうございます！」






隣にやってきた親友を、不機嫌そうに睨む彼。






篤「しっしっ、邪魔。」

麻「うっちー、ここ俺の部屋でもあるんだからね？」






追い払おうとする彼に抵抗する麻也くん。

相変わらず彼等らしいそのやり取りは、やはり独特な二人の関係が見えて面白い。






麻「俺めっちゃ感動しました！」

「見てて下さったんですか？」

麻「もちろん！」






ちらりと彼を見た麻也くんは、何かを企んだようにニヤリと笑う。

そして彼より二倍は高いそのテンションで、饒舌に語り始める。






麻「俺はチラ見なんかじゃないですよ。それはもうギシギシと音が鳴る程拳を握って、手に汗握って。…ね？」

篤「……さぁ、」






顔を覗き込みそう問いかける親友に、目線を合わせることもなく低い声出す彼、






麻「ファイナルから結果発表までの間なんて寝れなかったですよ。落ち着かないで、ベッドの中で一晩中ゴソゴソしてました。…ね？」

篤「………」






してやったりな顔をしながら彼を見る。

そんな親友の顔を無表情で暫く眺めた後、彼はボソッと低い声で呟いた。






篤「顔に変なのついてるけど、」

麻「え？まじ？」






"どこ？"と鏡へ向かっていく麻也くん。

今度は彼が、ニヤリと不気味に笑う。

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