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午前中からコンサートのパンフレット撮りを終え、レッスン室に向う準備をする。
「あ、」
鞄に手をかけたその時、iPhoneが床にぽとりと転げ落ちた。
「わ…」
一ヶ月放置したままだったそれの電源を入れると、今まで見たこともないような数の着信とメール。
そのどれもが、私の演奏を讃えてくれていた。
<おめでとう。>の文字が並んだメールたち。
祝福の声が入った留守番電話。
両親も、親友たちも、幼馴染も、自分のことのように喜んでくれていて、
その温かさが、昨日から緩みっぱなしの私の涙腺をまた緩くした。
「?」
幾つも残された留守番電話の最後、
5月11日 16時44分 内田篤人
それは、第一次予選のあの日、
緊張と異様な空気に飲み込まれそうになっていた、本番30分前のこと。
「………」
そっと表示された日時に触れ、iPhoneを耳に当てる。
"……成功を祈る。"
聴こえてきたのは、耳をこらさなければ聴き逃してしまいそうな程小さな声だった。
照れ臭そうで、でも優しい、大好きな声だった。
「………」
時刻は12時5分、
今頃日本にいる彼は夕食中だろうか。
Skypeをかけてみても、出てはくれないだろうか。
そんなことを思いながらも、PCを開いた。
一ヶ月振りの彼の声を聴いたら、もっとその声を聴きたくなってしまったんだ。
早く優しい笑顔に会いたくなってしまったんだ。
「………」
<いま、食事中?>
指先で遠くの恋人にメッセージを送る。
〜♪
PC画面に着信の知らせがあったのは、そのすぐ数秒後のことだった。
「…ふっ、」
彼もこの刻を待っていてくれたりしたのかな?
一ヶ月振りの愛しい時間に、鼓動が温かく音をたてたのが分かった。
「篤人くん、久しぶり。」
寝癖にジャージ、
合わない視線に手にはゲーム。
篤「どうも、」
PC画面に映ったいつも通りの恋人は、他人行儀に小さく会釈をする。
そしてその後に続けた言葉も、"お疲れ様です。"とわざとらしく他人行儀なものだった。
「何でそんなに改まってるの?」
篤「グランプリ様に馴れ馴れしい言葉は使えないですからね。」
「もう。やめて。笑」
篤「いえいえ、恐れ多いっす。笑」
その言葉とは裏腹に、からかうように笑う彼。
でも、
ケラケラとひとしきり笑い声を上げた後、彼は"おめでと。"と照れ臭そうに呟いた。
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laiz(プロフ) - うっちーさん» リラックス効果高けぇ、何だか懐かしい台詞ですね(*^^*)読み返して下さりありがとうございます。二人の出会いも懐かしい…(^-^)続編ではようやく二人の生活が戻ってきます。また癒しを沢山提供できるよう頑張りますので、是非覗きにいらして下さいm(_ _)m (2014年3月14日 21時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 祐さん» ありがとうございます(*^^*)二人とも早く会いたくてウズウズしていますね^ ^やっと二人の生活が戻ってきます。続編作成いたしましたので、是非覗きにいらして下さいm(_ _)m (2014年3月14日 21時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
うっちー(プロフ) - ほんとこの小説は癒やされます。篤人さん風に『リラックス効果高けえ』です。最近また最初から読み直してます。「そういえば二人の出会いのきっかけは槙野だったなぁ」なんて懐かしく思ってます。続きを楽しみに待ってます。 (2014年3月13日 10時) (レス) id: 30fdb895e9 (このIDを非表示/違反報告)
祐(プロフ) - ノクターン第13番鵺お疲れ様です(^^)お互い再会が待ち遠しい感じが伝わってきます☆更新大変だと思いますが、楽しみにしていますm(__)m (2014年3月13日 1時) (レス) id: dac0be65c1 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» こんばんは。楽しみに待つ内田さんと、それを気持ち悪がる母、ほっこりの回でしたね(*^^*)あー早く二人の再会が書きたい。でも、焦らすのも好きです^ ^笑"ななさん、このシリーズの結末まで是非お付き合い下さい!それまで楽しんで頂けるよう、頑張りますo(`ω´ )o (2014年3月12日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2014年2月15日 20時