ノクターン第13番 ll

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6月2日






篠崎A エリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門 グランプリ受賞ーー






ネットを見ても、新聞を見ても、昨夜の出来事がまだ夢のように思えてくる。



訳のわからないままトロフィーを受け取って、
訳のわからないまま授賞式を終えて、
訳のわからないままインタビュアーに囲まれた。

気づけば、あっという間に6月1日を終えていた。






松「ねぇ、これ見て。笑」






にやにやと笑いながら差し出されたiPadを覗き込めば、私の名と並んで記されていたのはやはり"グランプリ受賞"の7文字。

それでも何故か、他人事のように思えて仕方がない。






出だしこそ躓いたものの、リサイタルの部からの篠崎は他を圧倒していたー

ファイナルステージの演奏を終えた時、彼女の優勝を世界中の誰もが確信しただろうー



篠崎Aは、日本が誇る正真正銘の天才ピアニストだーー






「…なんだか、恥ずかしいですね、笑」

松「いやいや、その下だよ。笑」

「え？」






松原さんがスクロールさせたその先には、なんとなく見覚えのある4文字が並んでいる。



ーー湯浅 伸也






「…あ、」






"コンチェルトオーディションでたまたま合格したホテルピアニストが、勘違いして世界最高峰のコンクールにエントリーしてしまった。"






松「あんだけ揶揄しといて、とんだ手のひら返しだよね。笑」






でも、一ヶ月前のあの時とは違うんだ。

私の世界は変わった。確かに。






松「事務所にもオファー殺到してるらしいから、これから忙しくなるよ〜、日本が誇る天才ピアニストさん。笑」

「…やめて下さい。笑」






新しい夢が始まるんだ、これから。






松「とりあえず今は17日の受賞者コンサートに集中して。今後のことは、その後追い追い決めてこ。」

「はい。」






二週間後から三日間に渡って開催される、上位受賞者によるコンサート。

私の出番はもちろん、大トリだ。






松「暫く休む暇ないと思うけど、大丈夫？」

「はい、大丈夫です。」






そのステージが、私がプロとして初めて出演するコンサートになるだろう。






一ヶ月の長丁場を終えて、疲労を感じていないと言ったら嘘になる。

"グランプリ"というプレッシャーを感じていないと言ったら嘘になる。



でも、それ以上に楽しみで仕方がない。






これから始まる、新しい夢が。新しい世界が。

どんな未来が私を待っているのだろうー

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