ノクターン第13番 ll

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5月11日






ーパレ・デ・ボザールー

今大会の舞台となるのは、約2000人を収容する格式高いクラシック音楽専用のホールだ。






華やかな装飾、
飾られた花たち、

でもそんな色鮮やかな舞台とは対象的に、

客席は異様な緊張感で包まれ、出場者が集まる舞台裏は息が詰まりそうなほど空気が張り詰めている。






「………」






誰一人として会話を交わさない。

学生時代に出場した大会で顔見知りは数人いたが、そんなことは関係ない。



ここにいる全出場者を、蹴落とさなければ上へは登れないのだ。

誰にも、負けるわけにはいかない。






「………」






油断すれば呑み込まれてしまいそう。

この異様な静寂に、出場者たちの鋭い視線に、






見失わないよう、惑わされないよう、私はただじっと控え室の鏡に映る自分を見つめていた。






「………」






紫色のドレスが蘇らせる、

夜のガスパール スカルボのメロディ。






ーーーvorwarts…



＜頑張れ。＞

＜…なんなの急に。こっちの台詞なんですけど、笑＞



ーーー






頑張るよ。

少し鼓動が煩いけれど、もう二度と過去の自分に押しつぶされたりしない。






ーーーvorwarts…



＜負けるな。＞

＜だから、そっちがね。笑＞



ーーー






負けないよ。

少し足が竦んでいるけれど、この舞台で私は4年前のリベンジを果たすと誓う。






ーーーvorwarts…



＜踏ん張れ。笑＞

＜そっちがな。笑＞



ーーー






踏ん張るよ。

少し手が震えているけれど、この手の中にちゃんと私の音楽は存在しているから。






"ガチャ"






控え室の扉が開くと同時に、私の名前が呼ばれた。






「………」






静寂の中に響くヒールの音、

ドクドクと速くなる心音、



突き刺さる、ライバルたちの視線、






『No.58？』

「Yeah.」






行こう。

ここからは全て、ステージの上の私次第。






「……っ！」






勝負の舞台へと一歩踏み出した足元で、紫色のドレスがひらりと揺れた。

彼の想いが、ふわりと舞ったーー

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