ノクターン第13番 ll

29.Maya side ページ29

6月2日 午前6時






何気なく二度目の眠りから目を覚ませば、隣のベッドの内田篤人はまだPCに向かっていた。

眼鏡の下の目をこすりながら、大きな大きなあくびをする内田。



あの後一度寝たのかは分からない。

でも眠たそうなその姿を見れば、きっと寝なかったんだろうな。






"結果発表は現地時間の23時だって。

無理でしょ。一回寝よ。"






ていうか、寝れなかったんだろうな。

そんなこと言ってたけど、終始モゾモゾとベッドの中で動いていたのを俺は知ってるよ。





本当だったら、"こいつ、夜中にPC弄ってて寝不足です！"って声高々に告げ口してやりたいところだけど、今日は見逃してやろう。

あんなに真剣にクラシックに聴き入ってる内田篤人は、俺以外知らないからね。






篤「………」






真剣にPCを見つめるうっちーの邪魔をしないように、そっと画面を覗きこむ。

その時、舞台袖から現れたのは、紙やらトロフィーやらを手に持つ偉そうな大人たちだった。






画面が切り替わり、固唾を呑んで舞台を見つめる12名のファイナリストたちが映し出される。






麻「………」






Aさんが祈るように瞳を綴じた時、またギシギシと聴こえてきた。

親友が、強く強く拳を握る音が。






麻「結果発表、始まるね。」

篤「…ん、」






今度はその心臓の音まで聴こえてきそうだよ、うっちー。

俺ですらドキドキしてるんだから、うっちーなんてきっとその倍、いや何百倍も煩く鳴ってるんだろうな。






「「………」」






なんとなく聴き取れる言葉で確かに言った。

『これより、2013年 エリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門の審査結果を発表します。』って。






麻「…あれ？」






いま"エリザベート"って言った？

"エリザベス"じゃなくて？



うっちーの「う」の字を声に出した瞬間、やっぱりその言葉を飲み込んだ。






麻「………」






そんなに真剣な瞳してる人に、こんなくだらない質問出来ないよね。






『Sixth place、』

第6位、それは聞いたこともない名前だった。






篤「……はぁ、」






親友が小さく息を吐く。

安心したんだか、不安なんだか良くわからない顔をしながら。






大丈夫だよ、うっちー。

その祈りはきっと、
ベルギーまでちゃんと届いてるからーー

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