ノクターン第13番 ll

25.Maya side ページ25

6月2日






代表合宿真っ只中、

2日後にはW杯出場が決まるかもしれない大切な試合が控えてるというのに、



午前3時、

真っ暗な部屋にPCの起動音が鳴り響く。






麻「…んー？」






その音で目を覚ませば、隣のベッドから眩しいくらいの光が差して、






篤「あ、悪り。」






相部屋の内田篤人が、そう言って気まずそうに顔をしかめた。






麻「なに？こんな時間に。」

篤「今日だけ見逃して。」






眼鏡を装着して夜遊びする気満々の内田。

後で長谷部さんに事細かに告げ口してやろうとその画面を覗き込めば、タキシード姿でピアノを弾いているメンズが映し出されていた。






麻「あ、今日？」

篤「そ。」






そういえば何日か前に言ってた。

"エリザベスの決勝"がもうすぐだって。



そうだそうだ。

おかげで他でもない親友 吉田麻也の結婚式だっていうのに、内田は終始うわの空だったもんね。



そうだそうだ。忘れもしないよ。






麻「もう次？」

篤「じゃん？」






"寝ろよ。うぜー。"

そんな暴言を突如吐かれた瞬間、No.58のアナウンスが流れる。



心なしか姿勢を正した内田。

聞こえてくる大きな拍手と共に画面に現れたのは、そんなツンデレが愛してやまないお嬢様だった。






麻「おぉー」






漆黒のドレスを纏ったそのお嬢様は、
俺が最後に会った時より一層美しさに磨きがかかってて、






麻「ミス・エリザベスだったら圧勝だよ、これ。」






我ながらこんな時にくだらない事言ったなと思ったけど、そんなに鬼みたいな顔しなくてもいいんじゃない？内田くん。






画面の中のAさんがスポットライトを見上げた時、人知れずにやりと笑った内田。

…えっ、キモー！笑






篤「………」






でも、俺は知ってるよ。うっちー。

その顔は、大事な試合の前に良くする顔だよね。



緊張しないとか言って、
本当はしてる時の顔だよね。






画面の中のAさんが、首元に光るネックレスを握りしめる。

その時、親友もその手をぎゅっと強く握りしめた。






麻「………」






後ね、俺には確かに聞こえたよ。うっちー。

握った拳から、ギシギシと鳴るその音が。






そんなに想ってるんだね。
そんなに祈ってるんだね。

愛してやまない、彼女の成功を、







画面を見つめる親友の瞳は、強くて、優しくて、愛しげで、

その唇が、"頑張れ"と小さく動いていたことも、俺はちゃんと知ってるよーー

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