ノクターン第13番 ll

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ステージへと続く廊下は、きっと長くなんてない。短くなんてない。

最後のこの道をしっかりと噛みしめるように、一歩一歩前へと進んでゆく。






「………」






辿り着いたその先に、彼女は居た。

綺麗な黒髪を靡かせる、No.49 野田茉希。






「………」






セミファイナルのあの日から、私に話しかけてくることはなかった彼女。

ただ鋭い視線をこちらに向け、すぐに目を逸らすだけだった彼女。






でも、今日は違ったんだ。






野「ファイナル、始まるわね。」

「…ええ。」






そう呟いた彼女の声は、私を嘲笑うものではなかった。

強くて、闘志に溢れている。






野「今迄散々失敗してきたんだから、今日ずば抜けた演奏しないと入賞出来ないんじゃない？」

「大丈夫。ずば抜けた演奏をするから。」






即答した私に、"ふっ"と笑った彼女。

"出来るといいけどね、"といつも通りの嫌味も、何だか今日は違って聴こえて、






野「昔はそういう目してたわよね、あなた。」

「え？」

野「誰にも負ける気がしないって、自信満々で気の強そうなそういう目。」

「………」






彼女のその瞳は、まるで私を映す鏡のようだ。

そして何故か、懐かしさをおぼえる。



夢に向かって闘っていた昔の私を見ているようで。あの頃の私たちを見ているようで。






「………」






忘れていた感覚が蘇る。



私はこうして闘ってきたんだ。

誰にも負けるはずがないと、
自分に自信を持って、自分の音だけを信じて、

ずっとこうして闘ってきたんだ。






野「昔からその目ムカつくけど、自信なさそうな顔はもっとムカつく。」

「………」

野「本気になるのが遅いのよ、あなた。」






勝負の世界で音を奏でることの意味を、

いまやっと思い出せた気がする。






野「あなたの番よ。」






会場中に響き渡ったNo.58のアナウンス。



私を迎える拍手は、もうまばらなんかじゃない。自信のない私を急かす音でもない。






野「言っておくけど、あなたにはもう絶対負けない。」






夢に向かう私を、温かく歓迎する音色だ。






「私も、絶対に負けない。」






鋭い瞳でそう言えば、彼女はどこか満足そうな顔をした。






「……っ、」






ステージへと一歩踏み出した時、スポットライトが私を照らす。

見上げたそれは、もう眩しくない。






今、最高峰の舞台の真ん中で、

漆黒のドレスが一際輝きを放っているーー

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