ノクターン第13番 ll

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〜♪……






「………」






最後の一音を弾き終えた刻、数秒の静寂が会場中を包んだ。

そしてその後聴こえて来たのは、まばらな拍手でもなく、重たい心音でもなく、






『Bravo！』






今大会で初めて聴く、客席からの賛辞だった。






あちこちから上がるBravoの声、

客席を見渡せば、半数以上の観客が立ち上がり拍手を贈ってくれている。






これだ。この景色が見たかった。






「….……」






ピアノ椅子から立ち上がり、スタンディングオベーションの中に埋もれる彼を探す。

人と人の間に微かに見える彼は、満足気に笑い誰より大きな拍手を贈ってくれていた。






「…っ」






込み上げて来そうなものをぐっと堪え、スポットライトを見上げる。

眩しく私を照らすそれから、もう目を逸らしたりはしない。






客席に深く深く頭を下げ、一歩踏み出した。

淡い黄色のドレスが、月明かりのようにふわりと綺麗に揺れていたー









舞台袖に戻り、余韻を楽しむ間もなく走り出す。

その廊下の途中に立っていたのは、長い黒髪が綺麗な彼女だった。






「………」






何かを言うこともなく、嘲笑うこともなく、ただ私を鋭く睨みつけている彼女。

その拳は、震える程に強く握られている。






「聴いてくれてた？」

野「…っ、」

「…私も、絶対負けない。」






負けない。
負けるわけにはいかない。
負けたくない。

強く強く自分に刻みながら、走る。



自分を取り戻すきっかけをくれた、彼の元へ。






「………」






客席に降りてしまいたい気持ちを抑え、2階の廊下からロビーを見渡した。



でも、彼の姿は見当たらない。






「………」






気のせいだったのだろうか、
本当に幻だったのだろうか、

あまりに自分を見失いすぎて、彼に言って欲しい言葉を頭の中で再生していたのだろうか、



でも例えそうだとしても、
私を強くしてくれたのは彼に違いないけれど。






松「Aちゃん、こんな所にいたの？」






とびっきりの笑顔を浮かべながら、ヒラヒラと手を振りこちらに向かってくる松原さん。

昨日までとは違うその笑顔に、少し安心した。






松「まじで最高だった。観客の反応もずば抜けて良かったし。」

「…良かった、」

松「このままの調子でファイナル行ければ、優勝だって夢じゃないよ。」






背中にポンっと走った衝撃は温かくて、まだ小さいけれど、少しの達成感をおぼえた。

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