ノクターン第13番 ll

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くだらない会話を延々と繰り返し、気づけば時計の針は日付を跨ごうとしていた。






篤「もう寝た方がいいんじゃね？明日早いんでしょ。」






ほんの一時間前より随分軽くなった心、

不意に"ありがとう。"と彼に伝えれば、"ふっ"と照れ臭そうに笑う笑顔がまた私の心を解く。






篤「俺行けないけど、PC観戦してますんで。」

「…見なくていい。笑」

篤「なんで。笑 ラフマニノフさんの時は"来てほしかった"って大泣きしてたくせに。笑」

「………」






少し懐かしいエピソードを持ち出した彼。

あの時の私をからかうように鼻で笑う彼を、ギロリと睨んだ。






「演奏会は大切な人たちに見に来て欲しいんだけど、コンクールは少し違うの。」

篤「なにが？」

「わからないけど、何となくあまり見ないで欲しい。笑」

篤「何それ。笑」






演奏会とコンクールでは気の持ちようが全然違う。何故か、この感覚は昔から変わらない。






篤「じゃ、聴き流す程度にチラ見しとくわ。笑」

「うん。笑」






"聴き流す程度のチラ見"が、調度いい距離感かもしれない。






「あ、そうだ。」

篤「ん？」

「明日から大会期間中ずっと、iPhoneの電源切ってると思う。」

篤「ふーん？」

「昔からの癖なの。験担ぎみたいなもの。笑」

篤「あー、そういえばあん時も切ってたよね。おかげでチケット見つかんなかったっていう。笑」






また懐かしいエピソードを持ち出した彼。

再び鋭い目を向ければ、面白そうにくくっと笑う。






篤「さーせん。あの時は俺が悪かったです。笑」

「私も、悪かったけど、笑」






「「ふっ、笑」」






考えたくない"もしも"ばかりが頭を回るこんな時、貴方と話せて良かった。貴方と笑い合えて良かった。



いつもよりお喋りになってくれてありがとう。
いつも通りの笑顔を見せてくれてありがとう。



もう何も考えず、ぐっすり眠れそうだよ。






「じゃあ、寝るね。」

篤「ん。」






ペラペラと捲っていた漫画を閉じ、こちらに向き直った彼。






「？」

篤「おやすみ。」






"頑張れ"とか、"いつも通りにね"とか、そんな言葉をかけられると思っていたから、少し拍子抜けして笑ってしまう。






「おやすみ。笑」






私達は今宵も、いつも通りにSkypeを切った。

まるでいつもと変わらぬ夜を過ごす様に。
まるでいつもと変わらぬ明日を迎える様に。






「………」






時計の針が、0時を指したーー

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