【短編】とある夜の話 ページ41
キッチンから甲板に出る扉を開けると、秋島に近付いている海から吹く冷たい風に体を撫でる。
まだ温かな湯気を揺らめかせるホットコーヒーも、冷めてしまいそうだ。
「早く持って行こう」
見張り台で毛布に包まって不寝番をしているサンジ君のもとへ、翼を広げて飛び上がる。
驚かせようと思って、こっそり後ろから回り込んだのに見張り台に立つ私を迎えるサンジ君がいた。
「あー…またバレた」
「愛するAなら、どんな気配だってわかるさ」
「またそういう事言う…」
流れるようにウィンクをして言うサンジ君のおかげで熱くなる頬をそのままに、ホットコーヒーを押し付けた。
「ありがとう」と、ふにゃりと幸せそうに笑うサンジ君を知ってるのは私だけだろうなぁと思うと、私もつられてふにゃりと笑ってしまう。
「あ、そうだA」
「ん？」
「ベッジの城で俺がお前に告白したとき『夜ならよかったのに』って言ったのは、なんでなんだ？」
コーヒーでむせた私を見たサンジ君は、何かを察したのか大層良い笑顔で私を見下ろしている。
ガッシリ腕も掴まれてるし、逃げるのは難しそうだ。
「私の世界の小説家が英語の授業をしてたときに、ある生徒が "I love you" を「貴方を愛しています」って訳したんだけど、それを聞いた小説家が『日本人はそんな台詞は言わない。
"月が綺麗ですね" とでもしておけ』って言ったんだよ。…だから……その…」
もう耳まで真っ赤に違いない。こんなに冷える夜なのにカッカと顔が熱いし、心臓もバクバクしている。サンジ君を見れなくて、私はコーヒーに口をつけたまま俯いた。チクショウ、アイスコーヒーにすれば良かった。
「A」
「もー、見張りしてよ不寝番」
甘やかに名前を呼ぶ声に耐えきれず、反対を向くより早く頬に緩く指を折り曲げたサンジ君の綺麗な手が伸びて、指の背でスルリと撫でる。
そんな動作で動けなくなった私を、愛おしそうにサンジ君は見つめた。
「月が綺麗だな」
言うと思った…！
でも、このままやられっぱなしも悔しいから頬に触れる手を握って私もサンジ君を見つめた。
「死んでもいい」
露骨に動揺するサンジ君の首に腕を回して引き寄せた。
私の死を見たサンジ君からしたらシャレにならない言葉だろうけど、これは違う。
「"yours" …本来は『貴方のモノ』なんだけど、昔の小説家が 恋愛小説を翻訳するときに『死んでもいい』って訳したんだよ」
強く抱き寄せられたのと同時に深く唇が触れた。
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銀之助(プロフ) - 未だにお気に入り登録、お気に入り作者登録、ハートの通知などをたくさんいただき、ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。これからも長く楽しんで頂けたら、幸いです。 (2022年9月16日 22時) (
レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
銀之助(プロフ) - 香さん» コメントありがとうございます。かなりの長編だったのに全部読んでいただき、面白いと思っていただけて嬉しいです。キュンキュンをお届けできて一安心いたしました。 (2022年5月12日 21時) (レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
香 - 本当に好きすぎです…面白かったしキュンキュンしました！ (2022年5月9日 11時) (レス) @page48 id: 64178017ff (このIDを非表示/違反報告)
銀之助(プロフ) - たろ。さん» コメントありがとうございますー。一気読み嬉しいです！ありがとうございます。サンジくんの魅力を損なわず書けていたなら、本当に良かったです。 (2022年4月9日 22時) (レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - やばいめっちゃ泣いたし一気読みした…サンジくんたまんねぇなおい。 (2022年4月5日 3時) (レス) @page48 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：銀之助
| 作成日時：2018年7月11日 21時
