nineth shake ページ9
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その晩、都内某居酒屋。
先輩が乾杯の音頭を取り、みんなでグラスを合わせる。
「A、乾杯」
「ん、乾杯」
センラのグラスと私のグラスが軽くぶつかって涼しい音を立てる。
ノンアルのカクテルを一口飲み、隣で酒を呷る彼を盗み見た。
「いい飲みっぷりだねセンラ」
「おーせやろ?Aは飲まへんの?」
「こういう場で酔うの怖いんだよね。親しい人の前でしかできるだけ飲まないようにしてる」
「……ほ、ほー」
「どしたの」
「いやー別に?」
そうは言うがさっきよりも顔が赤い。まさかもう出来上がってきて呂律が回らないのだろうか。センラに限ってそんなわけ……。
「素面をお持ち帰りってあり?」
「……待て待て待てお前は何考えてる?」
「ん?Aのこととは言ってませんけど?――期待した?」
最後のところだけ、耳に顔を近付けてきて、私にしか聞こえないように囁いた。
う、うざ……。
「誰が期待するか。危険を感じただけだわ」
「……全然効かんな」
「は?何が?」
私の問いかけを無視してセンラは酒を呷った。こいつ。
「ほんまお前って鈍感」
「はあ!?センラに言われたくないわ!」
言われる原因に心当たりはないが反論ならすぐに浮かんだ。
センラは座敷に入る時、二人の女の先輩がセンラの隣を狙っていたにも関わらず全く気付かないで私に横から話しかけ続け、そのまま私の隣に座ったのだ。
おかげで彼の隣は片方しかなくなり、しかもそこに同じく鈍感な男性の上司が座ったのでセンラの隣はなくなった。私は今も尚女性陣から嫌な視線を浴びる羽目になっている。
飲みに誘ってくれた先輩がその中に含まれないことが唯一の救いだ。
「センラが気付いてて隣に座ってこなければ平和的に解決したのに……っ」
「…………」
「……センラ?え、ごめん怒った?」
言いすぎたかな。恐る恐る尋ねると、センラはぶはっと吹き出して笑った。
「お前その弱気になるとこええなっ……」
「ちょっ、馬鹿にしてない!?はあ!?謝って損した!」
「…………」
「…………」
え、だからなんで黙るの。うるさいお前が喋らないとなんか不安になるんですけど……。
「っ……くく」
「!!」
笑ってる。つまり、からかわれてるんだ。
うっわーーありえない。確信犯。最低。
そして言葉の応酬が始まる。途中から上司も混じって笑い合っていたけれど経緯は覚えていない。女性陣にも笑顔があって、なんだかんだみんな飲み会を楽しんでいる。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2022年6月6日 14時) (レス) @page15 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 乃々夏さん» コメントありがとうございます!こんな思いつきの作品に何度もコメントをくださって本当に嬉しいです、ありがとうございます。ご縁があればまた別のところでもよろしくお願いします! (2021年9月25日 23時) (レス) @page14 id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました…!更新の通知がとても嬉しかったです!お疲れ様でした! (2021年9月25日 23時) (レス) @page15 id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - リゼさん» ありがとうございます!完結したのでよろしければ最後まで見ていってください^^* (2021年9月25日 3時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
リゼ - この作品めっちゃ好きです…! (2021年9月12日 13時) (レス) id: c4d3492aa9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2020年8月27日 14時