eighth shake ページ8
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今夜は定時で帰れそうだと思いながらキーボードを叩いていたところへ、機嫌の良さそうな先輩が声をかけてきた。
「Aちゃん、今晩ひま?」
「今晩ですか?はい、予定ないです」
「じゃあさ、飲みに行こうよ!他にも何人かいるんだけど、みんな社内の人たちだから大丈夫!ね!」
「……はあ。わかりました」
若干押し切られた感はあるが、先輩には何度もお世話になっているし、本当に予定はないから断る理由がない。
できれば他のメンバーを教えてほしかった……そうか、先輩ちょっと前に社内で気になる人ができたって言ってたな。気になってるだけだって主張してたけど、もしや確定したのか。
で、メンバーにその人がいるから機嫌がいいとか。
「……ぽいな。誰なんだろう……」
「A、今ええ?」
見ずとも声でわかった。彼の名前を呼んで間をもたせてから作業を中断して振り向く。
「センラ。いいよ、なに?」
「あ、……あー、なんでしたっけ。ちょっと飛んでいきました」
右腕の書類の束を持ち直して、居心地悪そうに視線を逸らすセンラ。
話しかけておいて忘れるのか。しかし私もやったことはあるので、特に言及しないことにする。
「思い出したら話しかけて」
「あっ、えーと、はい思い出しました!思い出したからこっち向いて!」
「はい」
もう一度振り向いて話を聞けば、普通に仕事のことだった。事務的なやり取りの後、センラがいつもの雰囲気で口を開く。
「そういえば、今晩営業と別んとこの人らも含めて飲み会するみたいですね。Aも行くん?」
「さっき誘われたやつかな。多分行く」
「ほんなら俺も行こかな」
「え、来るの?」
これまで行く気のなさそうな口調だったから驚いてそんな風に聞いてしまった。
が、センラは気にした様子もなく答えた。
「まあ付き合いは大事ですし。放っといて奪われでもしたら大変ですし」
「……奪われるって何を?」
質問を重ねた私に、センラはにやっと笑ってみせる。
まるで守りの甘いところを狙って突くような、意地の悪い笑顔。
「俺の好きな奴」
そして、自分のデスクへ向かっていった。
……私は、むしろお前に一番奪われてると思うんだけど。
そう思ってから、何を考えているんだと心の中で呟いた。ほんと、何考えてるんだ。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2022年6月6日 14時) (レス) @page15 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 乃々夏さん» コメントありがとうございます!こんな思いつきの作品に何度もコメントをくださって本当に嬉しいです、ありがとうございます。ご縁があればまた別のところでもよろしくお願いします! (2021年9月25日 23時) (レス) @page14 id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました…!更新の通知がとても嬉しかったです!お疲れ様でした! (2021年9月25日 23時) (レス) @page15 id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - リゼさん» ありがとうございます!完結したのでよろしければ最後まで見ていってください^^* (2021年9月25日 3時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
リゼ - この作品めっちゃ好きです…! (2021年9月12日 13時) (レス) id: c4d3492aa9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2020年8月27日 14時