episode 50 ページ5
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「住む世界が違うってこういうことを言うんだなって思ってます。……私はただの大学生なんです」
膝の上で両手を組んで握り込む。
少し沈黙が流れた。
――すっと息を吸う音。
「そう思うのはわかります。ですが、うらたさんは住む世界が違うからって置いていったりする人ですか?」
「…………」
それは、ない。うらたさんは置いていくんじゃなくて、引っ張って連れていく。
いつでも、手を掴んで。
「彼だけじゃない、ボクも君もみんな自分の世界を持っています。その中で彼は、違うところに住むあなたと一緒にいたいと思ってますよ。誰よりも。なので」
まふまふさんがスマホの画面を向けてくる。
「多少世界を放り出してでも、君を奪いに来ますよ」
“Aちゃん、ボクに会いに来てるよ”
“うらたさんのところには行ってないの?”
数分前にこちらから送っている二つのメッセージに既読がついていた。画面上部には「うらたさん」と送信相手の名前がある。
私は、とても楽しそうにニコニコしているまふまふさんを見た。
「……これがどうしたんですか?」
「えっ、わかんない!?煽ってるんだけど、もしかしてうらたさんにも伝わってないかな……もっと煽るべきだったか……」
まふまふさんがタタッと文字を打ち込み、どう?と見せてくる。
“ボクのところには来てるよ^^”
その下には、プギャーの顔文字。
煽りまくり……。ってこれ送ってるじゃん。うらたさん怒らないかな。
「あっ、既読ついた」
「見てるんですねえ。今どの辺なんだろう、もう近くまで来てますかね」
「いやいや、来ませんって……忙しいんですから」
そう言った時だった。
バンッと扉が開き、俯いて息を切らしている誰かがそこに立っていた。雑誌の表紙でも飾りそうなお洒落な服装がこの場に不釣り合いで、背丈と髪色は私の心にいる人を思わせる、誰かが。
ありえないと思った。
けれどその人が顔を上げ、サングラス越しに宝石のような緑の双眸が覗いた瞬間、仮説は確かになった。
突如休憩室に現れたうらたさんは私たち二人を認めるとドアを閉めて、指でマスクを下げつつ息切れの合間に喋った。
「まふまふ、お前、後でころ……す」
「うええっ!?ゆっ、許してくださいよー!」
「うっせえ無理言って休憩延ばしてもらって抜け出してきたんだこっちは!お前のラインのせいで!!」
「だ、だってえうらたさんたち焦れったいんだもん……!」
……まふまふさんは素直な性格らしい。
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む-む(プロフ) - 更新ありがとうございます!いつも楽しく読ませてもらってます…!今後も応援しております! (2月5日 22時) (レス) id: e45905575c (このIDを非表示/違反報告)
蟹汁(プロフ) - 最新話とても楽しみにしておりました…!更新嬉しいです! (1月9日 13時) (レス) @page19 id: 1d876901a1 (このIDを非表示/違反報告)
yume(プロフ) - すごくドキドキする楽しい作品です!更新楽しみにしてますー! (10月28日 13時) (レス) @page18 id: af9fca39eb (このIDを非表示/違反報告)
きゆか(プロフ) - 更新楽しみにしてます…!いつか続きみたいなって思ってます…!! (2022年10月31日 0時) (レス) @page18 id: 1051f9e52c (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 更新頑張ってください!大好きなお話です! (2022年10月22日 16時) (レス) @page18 id: 2aca8cdc1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2020年8月27日 14時