episode 60 ページ16
.
「間ァ
『え？なに？女の子連れ込んでるん？Aちゃんはどーしたん、弱音吐くほど好きやっ――』
「そのAが来てんだよ！とっとと上がれ！」
力任せにボタンを押すうらたさん。つかの間沈黙があり、はあっとため息を吐いた彼はリビングのドアを開けて出ていく。
二人きりの時間が終わる。そう思ったら、うらたさんの背中に抱きついていた。
「ちょっとだけ……待ってください」
まだ行かないで。心から祈るように、抱きしめる腕に力を込める。
ちょっとだけでいい、から。
「ちょっとってどんくらい？」
「……え、と」
答えられなかった。だって本当は離れたくない。でも、離れなきゃいけない。
これくらいが「ちょっと」、か。
「すみません、もう」
「あのさ」
食いかかるように声が被さり、ぐっと顎を掬い上げられてキスされる。
触れるだけのキス。離れていった唇は、堪えるように一度強く閉じられて、それから言葉を紡いだ。
「これからセンラ入れんだよ。そういう可愛いことは邪魔入んねえ時にしろバカ」
ぺしっと私の額を叩き、踵を返して玄関へ向かう。
その耳は確かに赤かったように見えて、振り向かせたくなったけれど、同じくらい振り向いてほしくないと思った。
絶対私の方が真っ赤になってる。
「うらたさんこそ、そういうのは二人きりの時にしてください……」
こんな、引かない熱を残していかないで。
□■□
うらたさんの帰国前でセンラさんの空いている日が今日しかないそうで、うらたさんには止められたが先にお暇させてもらった。
『最後なんですし、お二人で過ごしてください』
『ありがとうなぁ。しかし密室に男二人、何も起こらないはずがなく……』
『おいてめセンラ』
きめえこと言うなと詰め寄るうらたさん、意外とわかりませんよ？ほら身長差なんかいい感じですし、とおどけてはさらに怒られているセンラさんは、傍から見てもとても仲が良くて少し妬けた。
次会ったら、最後までしてもらいたい……。
「とか考えながら歩いてるのやばいな、落ち着こ」
「それがええと思うわ。危ないで」
耳元で声がした。驚いて振り向こうとした際にバランスを崩してしまい、倒れかけた体を彼の腕が支えてくれた。
この赤髪を見るのは二日ぶりだろうか。
「ありがとうございます」
「ええよ。俺が驚かせてもうたし」
優しく囁いた坂田さんは、抱き起こしてくれた流れで私を抱きしめている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 719人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
む-む(プロフ) - 更新ありがとうございます！いつも楽しく読ませてもらってます…！今後も応援しております！ (2月5日 22時) (
レス) id: e45905575c (このIDを非表示/違反報告)
蟹汁(プロフ) - 最新話とても楽しみにしておりました…！更新嬉しいです！ (1月9日 13時) (レス) @page19 id: 1d876901a1 (このIDを非表示/違反報告)
yume(プロフ) - すごくドキドキする楽しい作品です！更新楽しみにしてますー！ (10月28日 13時) (レス) @page18 id: af9fca39eb (このIDを非表示/違反報告)
きゆか(プロフ) - 更新楽しみにしてます…！いつか続きみたいなって思ってます…！！ (2022年10月31日 0時) (レス) @page18 id: 1051f9e52c (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 更新頑張ってください！大好きなお話です！ (2022年10月22日 16時) (レス) @page18 id: 2aca8cdc1f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ノア
| 作成日時：2020年8月27日 14時
