episode 42 ページ45
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目が覚めて、左手に違和感を感じた。
体を起こしつつそちらを向くと、俺の手を握ってAが寝ていた。
「……は、」
A?え、センラは?間違ってAに連絡したのか俺……?
記憶を辿るが、熱のせいか夢と現実の区別が曖昧になっていた。センラが来たのは、携帯しているとかいう薬が詰まったクリアケースからくそ苦い薬を飲ませてきたのは、夢なのだろうか。
額に手を当ててみる。熱は引いている。
俺はもう一度Aを見た。
……可愛い寝顔しやがって。
「ほんと、ずりい」
Aと繋がっている手をそっと上げて、指を絡ませ、口元に持っていく。
「俺がどんだけ……」
先の言葉を飲み込んで、彼女の手の甲にキスをした。
……いやなんだこれ。誰だよ俺。キャラ違え。
立場が逆転してる。求められて適当に気まぐれに応えてやるのが俺だろ。
手を放して元の場所に置いたところで、Aが「ん……」と小さく唸った。
「……やば、寝てた!!すみませんうらたさ……あっ、起きてますね、体調どうですか?」
「良くなった。ありがとな」
「いえいえ、私は何もしてませんから……!せいぜいここにいたくらいで。良くなってよかったです」
安堵したように笑みを浮かべる。
俺の中の何かが掻き立てられ、すぐにでも襲ってしまいたい衝動を、理性で必死に抑えつける。
もし付き合っていたら、迷いなんかなくこいつに襲いかかれるのに。
「……はあ……」
「どうしたんですか?随分大きいため息ですけど」
「なんでもねえよ」
アホか俺は。まずちゃんと告白するべきだろ。
でも――万が一。俺じゃなくて他の奴を好きだったらどうする。
例えば、あの黒塗りの高級車の男とか……。
「う……」
苦しげな声を漏らして上半身を丸めると、Aが驚いた顔で「大丈夫ですか!?」と身を乗り出してくる。
その背中に腕をまわして抱き寄せ、肩に顎を乗せた。
「わり……あんま大丈夫じゃねえわ……」
触れていたくて、嘘をついた。
小さく息を呑む気配がした。Aは微動だにせずに言った。
「……お大事に。してほしいことがあったら言ってくださいね」
「じゃあ、このままいて……」
「……わかり、ました」
妙に強ばった声だった。緊張して固くなっているような。考えても分からないので気にしないことにした。
寄り添ってくれる肩に顔を埋める。
口に出せないこの想いが、彼女に触れている全てから伝わればどんなにいいだろうか。
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エス(プロフ) - ノアさん» いやー!!続きが楽しみですね!一生付いてきます!これからと体は気をつけて更新ゆっくりでもいいので頑張ってください!それと続き編ありがとうございます! (2020年8月27日 20時) (レス) id: 3190ad61df (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ミルクショコラさん» 夏休みですか!最高ですよね!!短いのは残念ですが、是非とも満喫してください^^* (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - エスさん» そう言っていただけて嬉しいです!私もどうなるかわかりません笑 これからもお付き合いくださると嬉しいです! (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 東雲さん» こちらこそありがとうございます!!長らくお待たせ致しました(汗) 続編移行したので是非これからもよろしくお願いします! (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - わかさん» 私がきっかけなんですか!?めっちゃ嬉しいですありがとうございます……!これからも頑張ります! (2020年8月27日 17時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2019年9月5日 19時