Love Traps【urt】【skt】

episode 37 ページ40

.



坂田さんがマフィアとして、裏社会のトップとして在る時の無慈悲な紅い目。

それが今、私を向いていた。

身の毛がよだつような戦慄に蝕まれていく。何度か向けられた以前のどれよりも、優しさを知った現在(いま)は紅い瞳をする坂田さんが冷たく恐ろしかった。

「すみませ……」

「俺の女になるなら許してやってもええけど」

――え？

坂田さんの……女、って。

「太陽の下を堂々と歩けへん、常に命が危険にさらされとる、死と隣り合わせの生活になるなあ。けど大丈夫、ちゃんと愛したげるよ」

私の髪を撫でるようにして、それから頬を緩める。

甘い微笑みなのに、どうしてだろう、刃物のように鋭く映るのは。

突然血塗れの自分が脳裏を過ぎり、体の芯が凍えた。


「なんてな。ちょっとは意識した？」


雰囲気から冷たさが消えて優しい微笑が浮かぶ。

……あ。私、馬鹿だ。

坂田さんがどういう人か、とっくにわかってたのに。

「俺のキスを受け入れるんはそういうことよ。わかったか？」

こく、と頷くと、やっぱり優しく笑いかけてくれる。

「帰ろか」

そう言って、踵を返す。速くない速度で、後ろの私を気にしながら適度な間隔を保って歩く彼の赤い髪が揺れている。

坂田さんが自分の都合で本気で他人(ひと)に冷たくするわけない。わざと、脅すようなことをしたんだ。私のために。坂田さんだって色々思ってるはずなのに……。

『お前のこと好きやから』


――この高鳴りは、彼と同じ“好き”の証、だったりするんだろうか。

episode 38→←episode 36

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す